top of page

金色の稲穂、宵闇の花びら

エピソードアーデンの前日譚アニメを見て妄想したお話。

1、金色の稲穂

アデエイ+レイ(アデレイ要素あり)のコメディ?系のハピエン。
このアーデンは「アーデン・ルシス・チェラム」
アーデンが、その役割を終えエイラと共に還る時、
独りぼっちなレイヴスくんも一緒に連れて行ってくれたら良いなと思った妄想です。

2、宵闇の花びら
アデレイ相思相愛ハッピーエンド。でもエイラも幸せになるというご都合解釈。
このアーデンは「アーデン・イズニア」

2つのお話は同軸と捉えていただいても、別軸と捉えていただいても構いません。
もしかしたら、アーデン自体、光と闇、その両方を持ち合わせていたのかもしれないし、
人格が2つに分かれたとも取れるなと(DLCが来る前である今は)思っています。
だってあまりにも昔のアーデンと今のアーデン違うので。

3、番外編:闇に舞う紅
 →2設定のエロ

※設定は捏造と妄想を多分に含んでおりますのでご注意下さい。

1、金色の稲穂

 お帰りなさい、と彼女は泣きながら言った。その顔があまりに記憶と同じだったので、彼女がそこにいる事をにわかには信じられなかった。何度同じ夢を見ただろう。石牢の中たった独り、何度彼女の笑顔を思い出しただろう。そしてはたと気づき、それが夢であることに絶望するのだ。
 しかし今目の前にいる彼女は幻などでは無く、間違い無くここに存在しているらしい。否、幻ではない、とは言い切れないのかもしれない。もう、私も彼女も居ないのだから。
「よくもまぁあれだけの人々を」
「返す言葉も無いよ…」
 しかし、それもまたこの星が人間に課した運命のひとつなのだ。部族の、村の、国の人々の平和な暮らしのため、一部を犠牲に差し出す。それが星の救済のためとスケールが大きくなった分、犠牲もまた大きくなった。それだけに過ぎない。
「結局、はなから私はこの星への捧げ物だったようだ」
 彼女は、エイラは何も言わない。その表情は泣いているようにも、穏やかに微笑んでいるようにも見える。エイラは初代神凪として、あの悲劇から2000年以上、ずっと事の顛末を見ていたと言う。
「神にとって都合の悪い人間はみんなシガイにして排除してしまうだなんて。なんて残酷な話だろうか」
「アーデン」
 エイラは穏やかに男の名を呼ぶ。
「良いのです。全て終わりました。もう……何もかも、過ぎた事なのです」
 その表情は切ないものだった。彼女だってこの残酷な運命に対して思うところがあるのだろうし、神という存在へのやるせない思いも抱えているのだろう。
 だがもう、恨む事にも悲しむ事にも、疲れてしまったのだ。
「そうだな…。エイラ、いこうか」
 アーデンはそっと彼女の腰に手を回す。エイラはその手い自分の手を重ねた。
 星に、還ろう。私もきみも、まだ個としての形を持たなかった頃に戻って、この星の命に溶けるのだ。
「やっと一つになれるんだ」
 目の前には真っ赤なヴァージンロード。いつの間にか、アーデンは真っ白な王族の装束を、エイラは、昔風の真っ白な婚礼衣装を身に纏っていた。
「もしもまた、この星の一員として生まれる時があったら、その時はさ」
「ええ」
 今度は、二人一緒に、旅をしようか。


 アーデンとエイラの旅立ちをじっと見つめる男がいた。男の生前の名は、レイヴス・ノックス・フルーレ。
 レイヴスは真の王に仕えた神凪ルナフレーナ・ノックス・フルーレの遺志を継ぎ、最後の神凪としてその使命を果たした。
 シヴァの魂であるゲンティアナがレイヴスへと寄り添う。
「アーデンは慈悲と慈愛の象徴として星に捧げられた犠牲。ノクティスは悲劇の幕引きを託された真の王。ルナフレーナは幕引きを導く神凪。そしてレイヴス、あなたは……」
「分かっている。……俺は人にも神におもねらない、中立の象徴。そして歴史の番人だ」
 神の側である歴代王に力を乞い、アーデンからシガイの力を分け与えられ魔導の義手を着け、神であるリヴァイアサンを討伐しようとし、ルナフレーナにはシヴァたるゲンティアナを頼るよう助言し、そして最後は、真の王に父王の剣を授けた。最後こそ使命を果たしたが、それも正直、アーデンの敷いたレールの上を歩んだに過ぎない。
「俺は無力だった。だから力を求め、運命を変えようとあがいたのだが…、最後まで、無力なままだった」
 神の力を得ることも、アーデンの力に溺れきることもできなかった。何一つ、運命に干渉できなかったのだ。 ゲンティアナは目を閉じたままで、その表情は一つも動かない。全て分かっていたのだろう。
 中立の存在である歴史の番人が、歴史に干渉する事などできない。
「腑抜けたノクティスは真の王として務めを果たした。ルナフレーナもまた、神凪として立派に使命を全うした」
 レイヴスは目を細める。エイラらとはまた別の場所で、ノクティスとルナフレーナも再会を喜んでいる。最愛の妹もエイラと同じように自身の王に寄り添い続け、そして今、あるべき場所に還ろうとしている。
「レイヴス。あなたの願いが今、そこに」
 ノクティスもルナフレーナも、オルティシエで見ることが叶わなかった婚礼衣装に身を包み、微笑みながらバージンロードを歩いている。
「俺も行くとするか。ルナフレーナはもう大丈夫だ。…俺の役目はここまでだ」
 レイヴスが眼を閉じると、その体が光に包まれた。そしてきらきらと七色に輝く光が収まった頃、彼は人型から姿かたちを変えてた。
「あなたは清らかな乙女にしか懐かない。……無理もない事です。だってあなたは」
 真っ白な毛並み、頭部には柔らかく光る一つの角。
 ゲンティアナは微笑む。
 そこに居るのは、真っ白な毛並みのペガサスだった。 
「お前はどうするのだシヴァ」
「私は…、イフリートの元へ」
「そうか。戻るのだな」
 ゲンティアナがすうっと宙に浮かび、たちまち氷神の姿に戻る。
「私たちは再び眠りにつきます。今度は剣神も共に。そして、もう二度と目覚める事はないでしょう」
 神々の時代の終焉。この先の未来は、この星に生きとし生けるものたちに託されるのだ。
「さようなら、レイヴス」
「…ああ」
 小さな風がすいとレイヴスの頬を撫でる。たてがみがそっと揺れる。
 そこにはもう何も居なかった。
「…さて。では俺は自由にさせてもらうとしよう」
 もがれた羽もこの通り取り戻した。レイヴスは、自由に世界を飛び回ろうと、大地を蹴り大空へと駆け出した、つもりだった。
「……!? な、なんだ!?」
 急に強い力にぐいっと引っ張られる。抗おうにもまるで手綱をつけられ引かれているような力で、なすがままに引き摺られていく。嫌がり、ヒヒンと馬の声で高く鳴いてみるもどうにもならなかった。
「アーデン? どうしたの?」
「エイラ、ちょっと待ってくれるかい? 一つ、忘れ物を思い出したのだ……ああ、来た」
 レイヴスはアーデンの力により、彼の元へと引っ張られたのだった。
「おい貴様! 何のつもりだ! 俺がいると何故分かったんだ!」
「ペガサス…!? アーデン、これは古代の生き物では!?」
「いや、俺らこそが古代の生き物って言うか…」
 興奮するエイラと、逃れようと暴れるレイヴス。
 アーデンはエイラに説明する。
「彼は君の子孫だ。たった独りで戦う私の傍にいてくれた」
「まあ、では」
「ああ……。ミルスの血が絶えたのちノックスが継いだ神凪、その末代だ。正確には、真の王の神凪の兄上」
「初めまして。私はエイラ」
「知っている!」
 なんでこんな事になってしまったのだとレイヴスは一人頭を抱える。ほんわかと微笑むアーデンとエイラのマイペースぶりに腹が立つ。
「会えて良かったよ、久しぶりだね。ああ、でもこの姿で会うのは初めてか」
「挨拶などいらん! 何故俺だと分かったのだ!」
「いや、分かりなどしなかった。ただ、ルナフレーナ様を見送ったきみが独りで居るのではないかと考えた途端に、この姿が『きみ』であると分かって、気付いたら君を引っ張っていた」
 そう言うと、アーデンはレイヴスを更に引き寄せて背中を撫でてきた。
「触るな!」
「私たちと共に行こう」
「いらん心配だ! 俺は自由に世界を駈ける! そしてその後は…」
「その後は、きみもまた、星に還るのだろう?」
 言い返す言葉が見つからず思わず黙ってしまった。その通りだったから。
「なぜ、独りで還るなどと寂しい事を言うのだ」
 誰かを信じれば、その分裏切られるからだ。ペガサスという存在は誰にも懐かない。清らかな乙女以外の、誰にも。
「私は、やっと永遠の生から解き放たれ眠る事ができる。自分だけ解放されておいて、散々翻弄してしまったきみを捨て置くことなどできない」
「貴様のその博愛主義は所詮エゴだろう! 婚約者殿と共に行け!」
「無論、エイラも一緒だ。そしてきみも」
 埒が明かずにイライラと蹄を鳴らすレイヴスに、エイラがそっと触れてきた。
「レイヴス、ですね? 遠い遠い私の子供。…共に参りましょう。アーデンのわがままを叶えてはくれませんか? 私も、あなたと一緒に行きたいわ」
 見上げてくるエイラの瞳は清らかだった。愛情と知性に溢れるその姿に、愛した妹の姿を重ねる。
「……お前が清らかな乙女であると言うのなら、ついて行ってやっても良い…」
「さすがエイラだ。兄上を説得できるなんて」
「何が兄上だ、気色が悪い」
「そう言わないでくれ。きみの事はきちんと兄上と呼んでいたではないか」
「当てつけのような『お兄様』を指しているのか?」
 アーデンは笑ってレイヴスの手綱を引く。先程までは手綱などかけられていなかったはずだが、いつの間にこんな物を……?
 考えても仕方がなさそうだ、とレイヴスはため息をつく。ここがどういう空間なのかも良く分からないのだ。おそらくは星から生まれた命、そして星へ還る命が一時準備をするところ。どこにも無い空間。
 ぱか、ぽこ、と蹄の鳴る音が響く。
「少しの間の旅路だけど、よろしくね、レイヴスくん?」
「アーデンと同じ呼び方で呼ぶな」
「あら、ではなんて呼びましょう?」
「……」
 この感じ、悪くは無いと思ってしまう自分が心底嫌だった。アーデンには散々酷い目に遭わされたというのに、不思議と怒りの気持ちは無い。
「生まれ変わったらきみ、私とエイラの子供になりなさい」
「なんだと! 絶対にごめんだ!」
 アーデンが親など死んでも嫌だ。何が悲しくて、この男とその婚約者の元に生まれなければならないのだ。自分は絶対にルナフレーナの元に生まれ変わる、とそこまで考えてはたと気付く。ノクティスの奴がルナフレーナを離すわけが無いだろう。つまり、またもや自分は爪はじき。
 アーデンとエイラの横は、不思議と心地よかった。焦がれ続け、遂には手にできなかった家族との穏やかな時間。
 ……まぁ、飼い犬くらいにはなってやっても良いと思った事は内緒だ。

bottom of page