top of page

****

 あれから、薬の効果が収まらないレイヴスに付き合って三回程挑んだ。三回とは勿論アーデンの回数で、レイヴスがイった数はメスイキを含めるともう数え切れない程だろう。最後は自分で立つことができなくなったレイヴスを抱え、ドロドロになった身体をシャワーで流してやり、シーツも換え、今は腕枕をして寝かしつけてやっている。
 静かになったのでもう寝たのだろうかと思った瞬間、小さな声が囁いた。
「たくさんホワイトデーの返しをしたのだろう」
 まだ起きていたようだ。アーデンの胸の中に顔を埋めるようにしているので、表情は分からない。
「急にどうしたの?」
「答えろ」
「なぁにもう……。そりゃ、社会的に必要な義理ぐらいはね」
 レイヴスがぎゅうっとしがみついてきた。
「いて! いてて! そんな力任せに抱きつかないでよ、苦しいってば…!」
「……お前は俺だけのものだ」
「勿論だよ、分かってるから! こらこら離しなさい、息ができない」
 今度は頭を胸の辺りでぎゅうっと抱え込まれてしまって、本気で息ができない。力尽くで離れようとしたらふと腕が緩んで、柔らかく抱き込まれるような体勢になった。
 とくん、とくんと彼の心音がおでこに響く。この子がこんな風に独占欲を示してくるのは珍しい。思わずにやけてしまう顔を引き締めるのに必死になってしまう。
 やがて、頭を抱えている腕から完全に力が抜け、規則的な息が聞こえてきた。
「おやすみ、レイヴスくん」
 彼の腕の中から抜け出て、もう一度自分の腕の中にしまい込んでから、アーデンも目を閉じる。
 散々挑んだ疲労から、眠りに落ちるのはすぐだった。


 朝起きると、既にレイヴスは身支度を調えていた。昨夜あれだけ乱れたのが嘘のように涼しい顔をしている。
「将軍様のあんな姿、誰にも見せられないね」
「黙れ」
「はは、相変わらずつれないねぇ」
「なんだ。貴様もしや……他人にも見せたいのか?」
 向こうを向いていたレイヴスが振り返り、すい、と流し目を送ってきた。
「ちょ……!?」
 アーデンは、天と地がひっくり返ったかのような衝撃を受けた。
 このリアクションは何だと言うのだ!? シラフの彼がこんな挑発まがいのことをしたことなど、今まで一度も無い。まさかまだ薬が残っているのか――?
「どうなんだ?」
「い、いやまさか! そんなわけないじゃないレイヴスくん! きみは俺だけのものだからね」
 タジタジになりながらも何とか答えると、彼は更に不敵な微笑みを深くした。
「そうだな。そして貴様は俺だけのもののはず……。周りの者共を多少牽制せねばなるまい?」
 一体何を言い出すのだーーー?
 と思った次の瞬間にレイヴスが取った行動に、アーデンは目が点になった。
「……きみの、それじゃないよ?」
 レイヴスが、アーデンが愛用している香水を自らに振りかけた。
 レイヴスが普段使う香水は、マリンと柑橘系の爽やかな香りだ。比べて、アーデンのものはムスクが入った甘めのもの。香りの系統が全然違う。気分でも変えたいのだろうか?
「だから、牽制だと言っただろう。ホワイトデーの翌日、お前と同じ香りの俺が居たとして…、周りはどう思うだろうな?」
 やたら美しい微笑みを向けられ、みるみるうちにアーデンの顔が赤くなっていく。
「ホワイトデーだというのに、あんな代物を見舞われた俺には、意趣返しするくらいの権利があると思わないか?」
 勘弁してくれ。どうしてこの子、時々とんでもないことしてくれるんだろう。機嫌良く、レイヴスはアーデンの部屋から出て行く。 

 その日は一日中、ヴァーサタイルやロキ、カリゴから散々何か言いたげな視線を寄越された。アラネアに出会った時には、うまく躱せる自信が無かったので急いで宰相の執務室に戻った。


おわり

bottom of page