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アデレイホワイトデー

以前マシュマロで、「支部にアップしている、アデレイバレンタインの続きのホワイトデー」というお題をいただいたのですが、やっと書きました。めちゃくちゃ遅くなってごめんなさい><
今回はアーデンのターンです。

  ここ、ニフルハイム帝国はイオスの北に位置する国だ。荒涼とした寒冷地であるこの場所において、三月はまだ春とは言い難く、雪解けには程遠い。それにも関わらず、今日の帝国内はどこかそわそわと落ち着かないでいる。まるで綻び香る花々がそこにあるかのように浮かれた空気は、さながら春の訪れと言わんばかりだ。
 ホワイトデー。それはバレンタインの成果が問われる日。想い人への気持ちが報われるのか、はたまた涙を呑むのか。受け取った好意をどう返すのか、或いはきちんと義理を果たせるのか。只の戯れに過ぎないと笑う人もいれば、一世一代の大イベントとする人だっている、それがホワイトデーなのだ。帝国の宰相、アーデン・イズニアにとってもそれは同じだった。
 アーデンはバレンタインを思い返す。その日、予想だにしなかったサプライズが起こった。レイヴスが、あの、レイヴスが。アーデンにお手製チョコレートをくれたのだ。彼はアーデンに意趣返しをするためロシアンルーレットを仕掛けてきたのだが、他の誰にもそんな事をしないのにアーデンにだけしてきた。これを特別と言わずして何と言えよう。例え中にわさびやからしや唐辛子を仕込まれていようと、ルナフレーナに唆されての行動であろうと、アーデンにはもう十分だった。
 今日はホワイトデーだ。アーデンは背筋を正す。この前くれた真心は三倍返しで渡さねばなるまい。
 こつこつと響く足音、それが妙に凄みを持っていたのは、何もすれ違う兵らの気のせいでは無かった。


 アーデンが仕事終わりに愛車を飛ばして向かったのは、寂れた場所にぽつんと明かりの灯る小さな家だった。家と言うよりは山小屋というに相応しいそこにはある老婆が住んでいる。今日はかねてより注文してあった物を受け取りに向かっているのだ。うっそうとした森の道を愛車は軽快に駆け抜ける。日は完全に落ち、辺りには夜の帳(とばり)が降りている。
 いかにもな出で立ちの木製の扉にはベルなどついておらず、鉄製のドアノッカーを扉に打ちつけて住人を呼び出す。数回それを鳴らすと、ややあってから、扉は小さく軋む音を立てながら内側にゆっくりと開かれた。
「どうも、こんばんは」
 細く開かれた扉から明かりが漏れ出す。アーデンは左手で帽子を取るとそれを胸に当て、膝を曲げる挨拶をした。その姿はさながら貴族のようだった。
「……おや、もうそんな時間だったかい?」
 扉から出てきたのは小さな老婆だった。良くある黒いローブを着た魔女姿ではなく、セーターにゆったりとしたボトム、それに大判のスカーフを頭に巻いていた。
「こんな場所まですまないねぇ。丁度お茶を入れた所だから、少し入っていかないかい?」
 老婆に促されるまま、アーデンは扉の中へと入った。
 家はログハウスで、中は温かい光に満ちている。入ってすぐにある居間のソファを勧められ腰を下ろした。暖炉の火がパチリと爆ぜる。
「ほれ。熱いから気をお付け」
「ありがとう」
 アーデンは、瀟洒なティーカップなどではなく、素朴な焼き物のカップに注がれたお茶をそっと一口飲んだ。
「良い香りだね」
「裏の庭で取れたワイルドベリーとカモミール、それに少しだけミントが入っているのさ」
「どうりでいい香りがするはずだ」
 暫しの間、二人はハーブティーを楽しむ。健全な関係の心温かい老婆と共に、ログハウスで夜にも関わらずハーブティーを飲む。なんと健全なのだろうか。まるでこれからしようとしている事が嘘のようだとアーデンは内心笑ってしまった。
「さて」
 口火を切ったのは、老婆の方だった。
「お前さんに頼まれていたものは準備できておる。だが……、こんな強い薬を、いったい誰に使う気だい?」
「俺の恋人」
「正気かい? ワシは止めたんだからな。嫌われても知らんよ?」
 アーデンは笑った。
「大丈夫だって。あいつはめちゃくちゃ強くてね。ちょっとやそっとの毒じゃ何も効かないような体質なんだ」
 彼もさすが王族なだけあって、幼少期より多少の毒には慣らされているのだ。高貴な身分の人間は毒殺の危険に晒される事など日常茶飯事だ。いくらテネブラエが平和な国だといっても、備えはしてあったのだろう。
「おや。一体どこの娘だい」
 物騒な事だねと老婆の顔が引き攣ったので、アーデンは種明かしする。
「違う違う。流石の俺でもか弱い女の子に薬盛ったりなんてしないよ。……恋人はね、この国の将軍」
「は?」
 まったく意味を理解していない事を示す、そのぽかんと口を開けた間抜けな顔。あまりに期待通りの反応で、満足を通り越して感謝したいくらいだ。
「だから、恋人はガタイの良い男なんだよ。知ってるでしょ? 属国出身の将軍、レイヴス・ノックス・フルーレ氏だよ」
「……!」
 老婆は心底驚いたらしく、目を丸くしている。
「あ、媼(おうな)って、そういうの気持ち悪いって思う人だっけ?」
 恐らく彼女の性格上そんな事は思われないだろうが(そういう気風の良い性格が好きで懇意にしてもらっているのだ)、念のためにと訊いてみた。質問はすぐに否定される。
「いいや、そういう事じゃないさ。ちょっと驚いたんだよ、まさか、お前さんがそっちの趣味だったとはね。……帝国を預かる宰相と将軍がそういう関係だなんて、一大スキャンダルだよ」
「いやあ、媼だから言ったんだよ。だから他言しないでね?」
「無論」
 真面目な顔で頷く彼女に、アーデンは礼を言った。
「実は、街ではちょっと疑われてるんだよ、時々パパラッチが彼をつけまわすみたいでさぁ」
 まぁ裏から手を回して消してるんだけどね。その部分は胸の裡にそっとしまっておく。物騒な事を言ってご老体を煩わせるものでは無い。
「お前さんらもなかなか大変なんだねぇ」
「宰相と将軍だもん、要人だよ」
「その割には一人で出歩いているようだが」
「おっといけない、もうこんな時間か、そろそろ帰らないと」
 老婆はははは! と心底楽しそうに笑った。
「これは渡しておくとしよう。まぁ、命に係わるようなものではないしな」
 将軍もなかなか大変じゃな、と老婆がため息交じりに言ったのに、再びアーデンは笑ってしまった。
 老婆に丁重に礼を言って薬の代金を支払い、アーデンは再び愛車を転がし元来た道を辿る。さすがに夜風は冷えるので車の幌はかけている。
 先程の老婆はいわゆる魔女で、魔女とは薬師に近い存在だった。ありとあらゆる薬草、植物、動物に精通し、都度適した素材を調合して薬を作る。それでは間に合わない時には、祈祷やまじない、時には癒しの術も使う。癒しの力は神凪程のものは無いが、それでも夜に怯えるこの星において、その力は人々の希望の一つだった。
 そんな崇高な使命を持つ魔女にこんな下世話な頼みごとをするなど、他人が聞いたら怒り出すだろうが、アーデンにとっては大切な事だったので頼み込んだ。長年懇意にしているだけあって、彼女は応じてくれた。
 アーデンが老婆から受け取った薬とは、何を隠そう、夜の愉しみに使うための薬だった。
「レイヴスくんどんな反応するかなぁ。びっくりするだろうなぁ」
 暴れ出す前に組み敷かないと大変な事になりそうだと真顔になった直後、薬を盛られたら暴れ出すどころじゃないか、と思い直す。どんな反応をするのか今から楽しみで仕方ない。
 アーデンはそわそわしながら車を走らせ、グラレアの街へと急いだ。


 アーデンが住居としているのは、地価の高い帝都でも一等地にある高級マンションの最上階だ。その地下駐車場に、気もそぞろに車を滑り込ませる。手早くギアを切り替えエンジンを切り、車を降りてロックする。ピッ、という電子音が駐車場に響いた。
 ようやく帰宅できた。アーデンは早足でエレベーターホールに向かい、降りてきた箱に乗りこむと最上階のボタンを押した。
 日頃あれだけ一緒に居るのに彼に合うのが待ちきれないのは、何も今日はお楽しみがあるからという理由だけではないだろう。
 高速エレベーターは瞬く間にアーデンを最上階へと送り届けてくれる。あまりに速いものだから、耳が気圧できぃんとした。
 自室のドアを解錠し、一目散にリビングへと向かう。
「レイヴスくーん、ただいまぁ」
 そこには、いつもの真っ白な礼服を着たレイヴスが居た。
「……遅かったな。俺よりも随分先に要塞を出たと思ったが」
「ちょっと行くところがあってね」
 大きなはめ殺し窓からは帝都の夜景が一望できる。その窓の側に、彼はぽつんと佇んでいた。
「どうしたの? 電気もつけないで突っ立って……。服もそのままだし、寛いでたら良いのに」
「いや…その、お前が居ないとやけに広くて……、落ち着かなかった…」
 レイヴスは、言葉の最後の方は恥ずかしくなったのか気まずそうに視線を下に外してしまった。なんとも素直で可愛い反応だ。
「おや、今日は甘えモードかな? ……独りにしちゃってごめんね?」
 彼の顎にそっと手の平を這わせて上向かせる。キスをされると分かったレイヴスが大人しく目を閉じた。
「ん……」
 ちゅ、と軽く唇を触れさせてからすぐに離れた。レイヴスは、これだけか? とでも言いたそうな不満げな顔をしているが、楽しみは後に取っておくのだ。
「続きはこの後ね。食事にしようか」
 腹は空いているがもうちょっと触れ合いたい、でも腹が空いている、とレイヴスが葛藤しているのが手に取るように分かったので小さく笑ってしまう。やがて渋々納得したらしく、心もちふくれ面をしてこくり、と頷いた。それを見届け、アーデンはこの日のために前日から準備していた食材を調理しにかかった。
「帝国宰相自ら調理するとはな」
「俺結構料理好きなんだよね。でも、食べさせたことあるのはきみだけだよ?」
 流し目を送ると、たちまちレイヴスは顔を赤く染めた。初心なことだ。いくら帝国で将軍職を預かる身と言え、まだ28歳、アーデンからすれば子供のようなものだった。
 キッチンで作業をしていると、彼も横にやって来る。
「まだ手伝って貰うことは無いよ、ちょっとそこでテレビでも見てたら?」
「……いや。今日はもう……お前以外の人間の声を聞く気は無い」
 ぽつりと言われた言葉に、アーデンの手が止まった。
 年甲斐もなくときめいしてしまった。まったく、この俺のペースを乱すなんてなかなかに手強いねぇ。
「……ねぇ、そういう台詞どこで覚えて来るの?」
 初心だと思った途端、こういうとんでもない事を言い出す。恋愛沙汰となれば天然が爆発するこの神凪様相手では、振り回されているのはアーデンの方だろう。
「別に。ただ、そう思ったから言っただけだ」
「仕方が無い子だねぇ。空腹のまま朝まで貪られたくなかったら、ちょっと黙って良い子にしてなさいよ」
 それは困る、と真顔で答えてから彼は大人しく離れた。と言っても、カウンターキッチンの向こう側に行っただけの事で、アーデンの手慣れた作業をじっと見ている。
「お前の手……」
「ん?」
「……なんでもない」
「え~、気になるじゃないの、言ってよ」
「お前の指は長くて綺麗だな」
 レイヴスはアーデンの手元をじっと見ている。何を想像しているのだろうか。レイヴスも意外とエッチな所があるんだね。いや、俺のせいだけど。
「……後できみのこともたっぷり料理してあげるから楽しみにしてなさい」
 低く甘い声を出すように意識しながら言うと、彼ははっとしたように顔を上げ、赤くなった頬で膨れてみせた。
「そういう意味ではない!」
「遠慮しなくて良いよ?」
「スケベ野郎」
「きみだけにね」
 ふん、と向こうを向いた彼を見ながらアーデンは、そう言えば、と日頃から不思議に思っている事をぶつけてみる。
「ねぇ、ちょっと訊きたいんだけど」
「なんだ」
「きみってもう28歳でしょ? 男でしょ?」
「はぁ?」
 今更何を言い出すのかと、レイヴスは不機嫌そうな声と細めた目つきを返してくる。
「だからさぁ。立派な成人男性なのにどうしてそこまで初心なのかと思って」
「経験が少ない事を馬鹿にしているのか?」
「違うよ。なんてゆーか、まるで生娘みたいに、ナチュラルに男を煽るよねって。同じ男なんだから、どういう態度が男を煽るかなんて分かるんじゃない?」
「……知らん」
 レイヴスはそっぽを向いてしまった。
「やっぱアレかなぁ。女系社会で育ってるから、生娘みたいっていうのもあながち間違いじゃないのかも」
「女扱いするな」
「はいはい」
 そう言っている間にも、夕食の準備は着々と進んでいく。口ばかり動かしているようでいて、しっかり手を動かすことも怠っていないのだ。
「そろそろできるから、持って行って」
 今日のメニューは、ローストビーフにマッシュポテトを添えたもの、シチュー、それに温かいタマネギのコンソメスープ。順番に出来上がるそれらをレイヴスがせっせと食卓に運ぶ。
「ワインでいい?」
「ああ」
 今日のために準備したワインは、レイヴスでも飲みやすい口当たりの良いものだ。レイヴスが持って行った2つのグラスにそれを注いでから、食卓に着く。穏やかな食事の時間が始まった。
 食事は美味だった。レイヴスもとても気に入り、嬉しそうに食べていた。まだ若い彼にしっかり食べさせないといけないと、いつでも共に食事をする時には親のような心境になってしまう。彼が遠征に出たりして別で食事を取る時でも、帰ってきた時にはちゃんと食べていたのかと確認してしまう。
 レイヴスの食事はとても優雅で、そして豪快だ。ぱく、ぱく、とどんどん平らげる食べっぷりは実に小気味よいが、カトラリーを扱う手つきは優雅そのものだ。さすがテネブラエの王族、と言ったところだろうか。気品ある身のこなしに、長い軍生活と戦闘訓練、それに彼が本来持っている気性の荒さが混じり、不思議な色気を醸し出している。
「なんだ?」
「いや? 見とれてるだけ」
「……ふん」
 あ、赤くなった。照れてるんだね、可愛いなぁ。目の前の恋人を愛でつつ、アーデンもしっかりと腹ごしらえする。この後の計画のため、スタミナをつけないといけない。
 食事が終わり、後片付けは俺がやる、とキッチンへ食器を下げたレイヴスを、アーデンは食卓で新聞を読むふりをしながらそっと観察するのだった。


******

「あ……?」
 レイヴスは、いよいよ大きくなる違和感に食器を洗う手を止めた。先程から身体の様子がおかしい。
 気付いたのは、食事を終えてすぐくらいだったろうか。身体が火照ったような感覚に、風邪でもひいただろいか? と疑いながらも最初はそれ程酷くもなく、気のせいだろうと思ったのに。今感じるこれは、明らかにおかしい。
「どうしたの?」
 止まった水音に気付いたのか、広げていた新聞を閉じてこちらを向いたアーデンに、レイヴスは震える声で懸命に訴えた。
「……少々具合が悪いらしい……ぅ……」
「おや。大丈夫?」
 シンクに手を突き俯くレイヴスの横にアーデンがやって来た。長い腕がたちまちレイヴスの身を絡めとる。
「息が乱れてるし、体が火照ってるな」
 背中を支えられ、分厚い胸板に抱きこまれる。レイヴスとて鍛えており大柄な方なのに、それよりもまだ逞しいアーデンの肉体。
 男の表情を仰ぎ見て、レイヴスは事の顛末を悟った。
「貴様……! オレに何かしたな……!」
 心配するようでいて全く焦った様子の無い声音。どこか色を含んだ眼差し。男が確信犯であることは明確だった。
「もう気づいちゃった? いい気分になるお薬、きみの分の食事に混ぜたんだけど」
「なにを……」
「今日ホワイトデーだからさぁ。たっぷり可愛がってあげようかなと思って」
「~~~~!! っく、ふ……」
 まだ何もされていないというのに体の中心から強烈な衝動が沸き上がってくる。
「おい……っ、どれだけ、強いの、使ったんだ……!」
「調合してもらった魔女が言うには『こんな強い薬を一体誰に使うつもりだ?』だって。相当強いんだねぇ」
「ぬけぬけと……っ!」
「だって君、薬の類ほんっとに効かないじゃない」
 好きにさせて堪るかと男の腕の中でもがくも、先程から熱を上げすっかり抱かれる準備を始めてしまった体は全くいう事をきいてくれない。思い切り殴りつけてやりたいのに、繰り出されるのはへにゃへにゃとした中途半端な拳ばかり。
「アーデン……!」
 とうとう観念したレイヴスは、悔し涙を浮かべて男の名を呼んだ。早く、この身体をなんとかして欲しい。
「はいはい」
 男にひょいと抱え上げられ、寝室へと運ばれる。興奮していて心拍数が上がり、男の耳元にかかる吐息が甘ったるくなるのを自覚する。自分を抱き上げた男の体温も上がりつつあるのを衣服越しに感じる。アーデンもまたレイヴスに煽られているのだと思えば、多少は溜飲が下がった。
 寝台の上に、放り出されるようにして仰向けに寝かされた。ぼふんと音を立てる寝台。重みを受けたスプリングが弾んでマットに体が沈む。着替えもせずにそのままだった礼服、インナー、ボトム、それらが男の手でぽいぽいと手際よく剥がされていく。見るだに複雑な衣装もアーデンの手にかかればあっという間だ。それだけ多くの年月抱かれているのだと嫌でも自覚してしてしまう。
 はやく、触って、舐めて、気持ちよくしてほしい。男の楔を身のうちに呑みこんで、ナカを突かれてイきたい。はしたない欲望に身を焦がされてレイヴスは唇を噛んだ。セックスなど、アーデンに抱かれる事以外に知らない。アーデンの男根をアナルに受け入れて女のように擦られ、快楽を得ている事実を、正気で認めるのはあまりに屈辱的だ。
 薄手の黒いインナーを首元までたくし上げられ、つんと尖って存在を主張している乳首を口内で舐め転がされる。じんじんとした快楽が性器にダイレクトに伝わり、勃っていることを自覚する。
「いっ……!」
 それまで優しく舌で包んで舐められていたものを、いきなり軽く乳首の先端を軽く噛まれてびくんと震える。
 アーデンの、獲物を射るような眼差しから逃れる事ができない。
「ン……っ、あ、アァぁ……っ、ヒ……」
 ちゅうっと吸われたり、唇できつく挟まれながら先端を舌で擦られたりして、上ずった甘え声が漏れるのを噛み殺しきれない。口を手のひらで抑えようにも、アーデンの腕に阻まれ叶わない。
「恥ずかしい? 初々しい仕草しちゃって」
 膝を擦り合わせて、なんとか衝動をやり過ごしているのを揶揄われる。
「ふざけ、るな……!」
「涙目で睨まれてもねぇ…」
 ぐい、とアーデンが自らの股間をレイヴスの太腿に擦り付けてきた。ボトム越しのその行為があまりに直接的で、羞恥と屈辱と、それからこの先に与えられるであろう快楽への期待で思考が焼き切れる寸前だ。
「あれ、もう濡れてる?」
 ひん剥かれたレイヴスの体に一枚だけ残されている黒のボクサーショーツ。その真ん中には恥ずかしいしみが出来ていた。
「レイヴスくんのえっち」
 誰のせいだと怒鳴ってやりたかったが、下着の中に大きな手が忍び込んできたせいで声を飲んでしまった。
「うーわ、どろっどろ。乳首だけでイけるんじゃない?」
 男の手が動き回るせいで下着がぐねぐねといびつに膨らむ。布地の中では性器がもみくちゃにされているのだと思うと、更に興奮してしまう。指で作った輪っかにペニスを扱かれると、にちゃ、ぬちゅ、と濡れた音が聞こえてきて気がおかしくなりそうだった。
「ッく……もう……っ、――――ッ!」
 クる、と思った時にはもう遅く、下着の中に欲望をぶちまけていた。二度、三度と断続的に吐精する度、快楽が背筋を這いあがってびくんびくんと背がしなる。
「あ……ク、…っふ……」
 食いしばった歯の間から快楽の吐息が漏れてしまう。涙を流しているらしく、男の指がそれをぬぐっていく。
「ふふ、気持ち良かった? ……おーい、ちょっと、トんじゃったの?」
 薬のせいだろう。いつもよりも強い射精の衝撃で頭がぼうっとする。
「レイヴスくーん?」
「う、るさい……」
 強い衝動が落ち着いたのはほんの短い間だけで、すぐにまた劣情が頭をもたげる。
「は……ッ、きさ、ま......」
「ん? なーに?」
「責任を、とれ……!」
 アーデンのにやついた笑みに腹が立ち、男の脇腹を蹴ろうとする。
「っと……、危ない危ない」
 しかし簡単に足首を掴んで阻まれ、そのまま大きく足を開く屈辱的な体勢を取らされた。
「レイヴスくん、可愛くおねだりしてごらん? そしたら、焦らさないですぐに挿れてあげるよ?」
「誰が……ッ、強請りなどするものか……!!」
「あ~、じゃあ、ずっとそのままで我慢する方が良い?」
「クッ……!」
 両足首を掴んでM字に大きく開脚された状態で、アーデンに見下ろされている。性器が、袋が、そして男を受け入れる孔さえもが丸見えの体勢で焦らされている状況はレイヴスに更なる屈辱を与えた。
「は、ァ……っ」
 強力な媚薬を盛られた状態ではもはや耐えられる訳もなく、強靱な意志を持ってしても陥落は目の前だ。じりじりと募る焦燥感に唇を噛む。
「……泣く程苦しいの?」
「…当たり前だ……ッ!」
 こんな目に遭わされて苦しまない訳が無い。この男は自分でやっておいて何を言っているのだろうか。
「安心しなよ。満足するまで遊んであげるからさ」
「俺は別に、欲しがってなど……!」
「無いの? ほんと? ココ、こんなにしてるのに……?」
 アーデンの長い人差し指が、再びガチガチに勃起してしまっているレイヴス自身をゆっくりと辿る。
「後ろの孔もひくひくして、辛いって言ってるけど?」
 性器を弄っていた手が後ろに伸び、後孔の襞も指の腹でゆっくり撫でられ、もう限界だった。
「や……、もう、やめろ!」
「何をやめるの?」
「……焦らすのをだ!」
「降参する?」
「……殺す!」
 レイヴスの苛立ちなど意に介す風もなく、アーデンは笑いながら、はいはいと返事を寄越す。それからやっと自分の衣服を脱ぎ始め、一糸纏わぬ姿になると、ようやくレイヴスの後ろを解しにかかった。
「は……っあ、……」
 潤滑剤を纏った指が後孔につぷんと潜り込んできて、腹側にある弱い場所を押し込むように刺激される。甘い疼きが背筋を這い上がる衝撃に、身体をよじってしまう。
「ン、くぅ……」
「こら、じっとして」
 ぐりぐりと弱い場所ばかり執拗に触るくせにそんな事を言う。男の節ばった長い中指、その指の腹で前立腺を転がすように刺激されて、甘い喘ぎが次々と零れる。本来、他人に触られることなど、快楽を与えられることなどない、そのための場所ではない部分で、とろけるような快楽を得てしまう肉体。
「気持ちいいんだ? えっちなお汁が垂れてるよ?」
 性器の先端から愛液が分泌され、腹筋の上に恥ずかしい水たまりを作っている様をまざまざを見せつけられながらからかわれ、羞恥と快楽に涙が流れた。もう、もたない。
「ぁ…、も、イく、イく……ッ!?」
 解放は目の前、というところで、残酷にも指がひくつく孔から出ていってしまった。期待を裏切られた襞が、必死でうねって再び杭をくわえ込もうと蠢く。
「なぜ……っ!」
「あ~ほら、泣かないの。そう簡単にイっちゃったらつまらないでしょ?」
「きさまッ……! 変な薬を盛ったからだろうが……!」
「そんなに慌てなくても大丈夫だって。もうちょっと解してあげるから。お楽しみはその後だよ」
 今度は三本の指が孔に潜り込んできた。急に増えた質量に、切れはしないだろうが入り口が少し引き攣れて痛い。慣れた身体は早く楽になろうと無意識に口を開いた。
「いい子だね」
 今度は、レイヴスが気持ちいいところをわざと避けながら直腸内をまさぐられる。ぷちゅ、くちゅ、と、中で潤滑剤が泡立つ音がする。
 散々快楽を与えられた先程とはうって変わって、男を受け入れるための準備として事務的にされる行為。しかし淫らな薬に煽られた身体が快楽として認識するには十分だった。
「……ぅ……」
「そろそろかな?」
「いい、から、はやく……」
「もうちょっと我慢して」
 まだちょっとキツいから、と言われたが、もう限界だった。
「うわ、ちょっとちょっと、レイヴスくん!?」
「も、待てな……っ」
 レイヴスは無理矢理起き上がった。アーデンの指がずるりと抜け落ちる。その刺激にすら感じてしまって一瞬動きを止めたが、すぐに男の胸を押し、仰向けに倒しにかかる。
「おっと」
 アーデンは手をつき、ベッドに足を投げ出して座る姿勢になった。レイヴスは、男の股間を見やり、半勃ちになっているモノを見てから、覆い被さるようにして顔を近づけ、躊躇いもなく口で愛撫し始めた。
 ぴちゃ、ぺちゃ、と下品な水音を立てながら施される口淫。アーデンはレイヴスの髪に指を入れ、頭を撫でてやる。
「我慢できなくなっちゃったんだ?」
「ん……んぐぅ」
 話かける声は優しいが、アーデンの大きな手の平はしっかりと後頭部を押さえていて、口を離すのを許さない。だんだんと顎が疲れて、自分で頭を前後できなくなってくる。するとアーデンはレイヴスの頭をしっかりと押さえたままで腰を前後に振り出した。
「ゥ”ッ、ぅグ……! んんっ…、っぷ……グ……」
「ほらほら、頑張って」
「むぐゥゥゥ……ッ」
 喉まで塞がれ呼吸が苦しい上に何度もえずく。アーデンは、涙とよだれをダラダラ零すレイヴスの腔内を使って自身をしっかり育ててから、やがてずるりとそれを抜いた。
「はぁ、は……、っ、はぁ……」
「お待ちかねのものだよ。はい。……好きにして良いから」
 顎がガクガクする上、涙で前は見えないし、口元が唾液でドロドロだ。さぞかし酷い顔をしているだろうと思いながらも、レイヴスは顔を拭う程の余裕も無く、仰向けに寝たアーデンの腰を跨ぐ。そして男の怒張を右手で支え、数回自分の尻の割れ目に擦り付けて位置を確認すると、ゆっくりと腰を落としていった。
「あ……ッ、うぁ……」
 むにゅう、っと亀頭がアナルにめり込む。最初の太いくびれさえ受け入れてしまえば、あとはひたすら奥まで咥えるだけだ。アーデンのモノは、その体躯に見合う立派なもので、亀頭の傘も、幹の太さも、長さも、十分過ぎるもので毎回受け入れる最初は苦しい。
「……っ、……」
「息を詰めないで」
 熱く濡れた肉に締め付けられるアーデンもまた、少し息が上がっている。その手が上げられ、レイヴスを宥めるように太腿をさすってくる。
 薬で疼く中をずりずりと擦られ、いつもの何倍も強い快楽を味わう。
「ア、も、もう……」
 レイヴスのつま先がきゅうっと丸まる。まだ男を根元まで受け入れていないにも関わらず、そのそそり勃つ欲望は快楽の白密を飛沫いた。 

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