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花に安らぎ、きみに愛

「ガーデンバース」という設定をお借りしました。設定はこちらのものをお借りしております。(https://www.pixiv.net/artworks/88636558)素敵な設定をありがとうございます!

・複数攻め、セフィロス総受けです。
・「ガーデンバース設定」をお借りしたパラレル小説です。
 ※資料を読んで書かせていただきましたが、解釈など間違っていたらすみません。 
・キャラクターの設定がパラレルです。
・原作とキャラクターのステータスが異なります。
 (例:セフィロスが最強の英雄ではない(ある意味最強だけど)、クラウドがAC寄り)
・キャラクター同士の関係性がご都合主義になってしまいました。……許されたい。
・途中、アンジールが若干不遇な扱い(?)を受けます(主に髭ネタ)。

以上で大丈夫そうでしたら、先へどうぞ。

「……っ!」
 もう慣れっこであるものの、感じなくなることはない痛み。セフィロスは自身の手の甲に真っ白なガーベラの花が咲いたのを見て、ため息をついた。
 初めてこうして身体に花を咲かせたのは、確か十四の頃。それから五年程が経過した今まで、痛みを伴う花の開花に埋もれては、研究員らに花を摘まれる日々。
 花生はなうみ。それがセフィロスの性さがだった。花生みとは全身に花を咲かせる者を指す。その花は、花食はなはみと呼ばれる性の者にとって大層な糧となる……とセフィロスは聞いているが、実情がどうなのかは知らない。何しろセフィロスは、花を咲かせるようになってからはずっと、ここ神羅の科学部門の日当たりの良い一室に半ば軟禁されており、研究員ら以外と接することはない。そして彼らはセフィロスの身体から花を摘むものの、食べることはしない。なぜなら、彼らは花食みではないから。
 花生みであるセフィロスは、貴重だ貴重だと言われて過ごしているが、花食みもまた貴重な存在らしい。
『花食みとは、限られた一部のエリートだ。この神羅のソルジャーのごく一部、そして例外的な人間のみが当てはまるのだよ。セフィロス、きみはその花食みらに糧を与えるための大切な花生みだ。きみなしには、我々神羅は立ちゆかない』
 幾度となく聞かされてきた言葉。
 セフィロスは花生みとして神羅に「造られた」存在らしい。そして花食みらもまた、神羅が造り出した者たちなのだ。
『花食みはきみの糧を食らわないと、能力が引き出せなくなる。その力が暴走し身の破滅を招くことすらあるのだ』
 そう言って、痛みに呻くセフィロスを宥めながら、科学者らはセフィロスの全身から噴き出すように咲き乱れる花々を丁寧に摘んでは、どこかへと持ち去るのだった。

 彼らとの出会いは、突然だった。
「きみがセフィロスか? ……いや、驚いたな。こんな美人が存在するとは」
 ある日唐突に、科学者らが複数人をセフィロスの居室に連れてきたのだ。
(こいつらは……何者だ?)
 人数は四人。全員が男だった。
 一人は髭を生やした黒髪。一人は綺麗な顔をした茶髪の優男。一人は人なつっこい笑みを浮かべた、これまた黒髪で、どことなく子犬に似ている。そして一人は眩い金色のつんつんと四方にはねる髪をしていて、チョコボに似ている。
 彼らは一人ずつセフィロスに向かって自己紹介をした後、セフィロスの方へ向かって歩いてきた。
 セフィロスは、咄嗟に立ち上がって後じさった。
「あれ。この子随分背が高いじゃないか」
「俺よりもまだでかいのか。しっかし、腰は細いな」
「花生みって、こんなに綺麗なのか。俺びっくりした」
 茶髪と髭と子犬が口々に言う。
「俺になんの用だ、離れろ」
「すまん、怖がらせたか。……宝条、どうしたら良いんだ。この子怯えているぞ」
 セフィロスの威嚇もまるで気にした様子のない髭が、科学部門の統括である宝条に声をかける。
「ほうほう、お前にも怖い物があるのかね、セフィロス」
「何を企んでいる?」
「企むとは人聞きが悪い。こやつらは花食み、お前が花を与えてやっている男たちだよ」
 こいつらが、花食み。セフィロスはまじまじと四人の男を見つめる。
 一見、どこにでもいる普通の男らに見えるが……。
「お前、最近元気がなかっただろう?」
 宝条に言われ、セフィロスは首を傾げる。自覚はない。
「いや、体重が徐々に減ってきている。おまけに、咲かせる花が異常に増えているだろう」
 花が増えているのは自覚があった。それに、最近は開花の痛みが増している。
「情けないことに、我々としたことがお前の扱いを間違えていたのだよ。何せ花食みも花生みも、お前たちが史上で初めての存在だからな」
 クァクァクァ! と気味の悪い笑い声を上げたあと、宝条は話しはじめた。
 宝条が言うには、花生みは花食みに花を与える代わりに、花食みから体液を与えられることで糧を得られるらしい。
「体液、とは……血か?」
 セフィロスが問うと、宝条は眼鏡を光らせて答えた。
「そんな難しいものでなくて良い。……なに、簡単なことだ、精を注いでもらえば良いのだよ」
 せい。せい? 注ぐ……、生、性、精……。
 精……!?
「な……っ! な……! な……!」
 ぱくぱくと口を開くも、出てくるのは意味をなさない音ばかり。
「栄養たっぷりの食事をしっかり与え、適度な運動もさせ、日に当たらせ、栄養剤も与えているのに弱っていくから困っておったら。お前に水やりが必要なことに気がつかなかったのだよ」
 水やりとして、精を注がれるというのか。男であるセフィロスが、同じく男である花食みたちに。
 冗談じゃない。
 セフィロスは部屋からの脱出を図った。
「……! あ、こら!」
 軟禁されていると言っても、全く外に出られないわけでは無い。危なくないと判断された時には、科学部門のフロア内は自由に探索していた。本棚の前にセフィロスが座り込んでいても科学者らは自由にさせてくれていたし、しばらくして部屋に戻されるまでは自由時間だったのだ。だからフロアの構造は理解している。
 セフィロスは廊下を走る。後ろから科学者らが追いかけてくるが、彼らは兵士ほどの体力があるわけではない。だから撒いてしまえば何とかなるはず。
 問題は、このフロアからどうやって逃げ出すか。セフィロスはカードキーを持っていない。科学者らは部屋から部屋へ移動する時、セフィロスの部屋に入る時、必ずカードキーで扉を開けている。だからあれがないと扉が開かないのだろうと検討をつけている。
 エレベーター。途中で止めて待ち伏せされたら終わりだ。エスカレーター。あれは一、二階部分にしか付けられていなかったはず。
 非常階段。
 金属でできた重い扉を目がけて走り、ドアノブを力いっぱい回した。
 ガチャリ、とノブが回る。扉を押し開ければ、目の前には青い空。風がバタバタと長い髪をなぶる。
 足元には金属製の階段。
 セフィロスは階段を駆け下り始める。いっそ飛び降りてしまいたい衝動に襲われるが、さすがにここからでは命がない。何せ科学部門のフロアがあるのは六十九階なのだ。
 果てのない階段。ここから一階まで降りるのに、どれだけの時間がかかるのだろう。体力は持つのだろうか。
 必死で駆け下りるも、やがて歩調が落ち、足が思うように動かなくなり、息が切れる。
 もうダメだという所で、セフィロスは座り込んだ。ぜいぜいと激しく酸素を貪るうちに咳き込んでしまった。その時、口から真っ白な花びらがはらはらと舞った。咳で花びらをまき散らすなんて初めてだ。喉の奥にでも咲いたというのかと、セフィロスは自虐的に笑った。
 ふと、必死で降りてきた階段を見上げた。
 そこは奇妙なまでに静まり返っていて、追っ手は全く来ていない。
(なぜ誰も来ない……?)
 青い空、強い風。日の光がきらきらと輝くように降り注ぎ、不気味なまでの開放感を味わう。
 少し休んだおかげで、呼吸は落ち着き、足に溜まった乳酸もマシになっている。
 セフィロスは手すりに捕まりながら立ち上がり、再び階段を駆け下り始める。どれくらいまで下がってきただろう。あとどれくらいあるだろう。
 その時、急に下の階の扉が開いた。
「……ッ!」
「お、いたいた。おーい、そんなとこいたら危ないぜ? 俺と一緒に戻ろう、な?」
 子犬が手を差し伸べながら階段を上がってくる。セフィロスはすぐに引き返し、今度は階段を上る。下りよりも更にきつい運動で、もともと悲鳴を上げていた脚が途端に上がらなくなる。
「こらこら、逃げるなって。こっちおいで」
 子犬はセフィロスよりも年下だろう。体格もセフィロスの方が大きい。そのくせ、まるで年長者が子供を呼ぶような口調で話しかけてくるのが気にくわない。
「図に、乗るな……っ、……は、……はぁ」
 息が苦しい。ごほっと再び咽せると、今度は桃色の花びらが散る。まったく忌々しいことだ。
 これ以上は無理だと、セフィロスが扉に手をかけ、何階かは分からないがままよとばかりにビルの中に入ろうとした時。
「綺麗な顔して、気が強いじゃないか。なかなかに手折りがいがありそうだ」
 やや掠れた声に、硬質な靴音。はっとして見上げると、一つ上の階で、金髪のチョコボが微笑んでいる。
「お転婆だな? だがゲームオーバーだ。……諦めろ」
 一見可愛らしいとも言えるような容貌で、随分高圧的な言葉を吐く。セフィロスは意外に思いながらも、チョコボから視線を外さないまま一歩後ろに下がり、そのまま扉を閉めてビルの中を逃げようとした。
 しかし、すぐに何かにぶつかってしまった。
「……こら、前を見ないと危ないぞ?」
 ぶつかったのは、髭の男だった。セフィロスの方がやや背が高いが、男は身体の厚みがある。その筋力で耐えたのだろう、セフィロスにぶつかられたものの、よろけるどころかセフィロスの身体をしっかりと抱き留めてみせた。
「ようやくお縄か、やれやれ」
 髭の後ろから茶髪も現れた。再度扉が開き、子犬とチョコボも入ってくる。
「……俺たちはソルジャーだ。体力では負けない」
 髭が言うと、チョコボが肩を竦める。
「ま、俺は違うけどね」
「似たようなものだろう。お前だって花食みだ」
 茶髪の言葉に子犬が頷き、それから「あ」とセフィロスの方を向いて声を上げた。
「お前大丈夫か? すっごい苦しそうにして、花吐いてただろ?」
 子犬が心配そうに走り寄ってきて、そっと頭を撫でられた。
 セフィロスはびくりとする。出会ったばかりの男に撫でられたら、誰だってそうだろう。
「触るなっ……! 嫌だ、離せ!」
 既に力尽きそうな身体にむち打ち、セフィロスは髭の腕の中から逃れようとした。
「こら、大人しくしろ。……ここで犯されたいか?」
 そう低く脅しつけてきたのは、先程高圧的な言葉を吐いた男、金色チョコボだ。
「な……っ!」
「まったく……仕方ない、ちょっと眠ってろ」
 チョコボに手を翳される。すると唐突に泥沼のような眠気が襲ってくる。
(スリプルだ……!)
 そう思った時にはもう、意識はブラックアウトしていた。
 セフィロスは髭の男、アンジールの肩に担がれて、科学部門の自室に連れ戻されたのだった。

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