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Bound Love

side Ravus

 帝都グラレアに浮かぶジグナタス要塞は言うまでもなく巨大だ。ここには軍に関わる全てが備わっている。当然、軍人が訓練後に汗を流すためのシャワールームもある。
 夜になり人気の無くなったその場所で、一つだけ水音がする個室があった。個室と言っても安全上からドアや鍵はない。トイレのようにパーテーションで区切られたその狭い個室の、入口部分には防水カーテンがあるのみだ。
 天井部分に取り付けられた銀色のシャワーヘッドの一つからは湯が出っぱなしになっている。それはレイヴスの体ではなく直接床に叩きつけれられていて、サァァ、とやや大きめな水音を立て続けている。
「あーあ、また襲われちゃったの? かわいそうにねぇ」
 先程から靴音がしていたから、現れるだろうとは思っていた。それにしても、なぜこの男はこうも間が悪い所でやって来るのか。もしや自分を文字通り二十四時間見張っているのはないかと思ってから、レイヴスは自らの思考を振り払うように頭を振った。ぞっとするがあながち間違ってもいないように思ったからだ。嫌な事に気付いてしまった。
「で? 素っ裸で格闘して伸したのが全部で三人?」
 アーデンは自分のコートに湯の飛沫が跳ねるのも構わず、レイヴスがいる個室までやって来た。
「もう二人居たが逃げた。所属も顔も知らん」
 返ってきた答えにアーデンは口笛を拭いてみせた。それがからかわれているように思えて、レイヴスの眉間に皺が寄る。
「じゃあその二人は分かんないね。この三人は?」
「軍法会議にかける」
「おお怖い。流石は泣く子も黙る、帝国の将軍様」
 アーデンの最後の言葉は自分に対する酷い当てこすりだと思った。なぜシャワールームで将軍たる自分が襲われるのか。それは何も自分が丸腰の時を狙っているからだけではないのだ。今までの経験上、目的など簡単に察せられた。不埒な視線が自分に向けられているなどと、考えるだけでも反吐が出る。奴らがこのような暴挙に出るのはテネブラエ出身の自分を舐めているからに他ならない。
「……思ってもいない事を口にするな」
「えぇ? そんなこと無いって〜。ちゃあんときみの意思は尊重してるし、助けてあげてるじゃない」
「……知っている」
 レイヴスの答えに、アーデンは満足したようだった。
「きみ、ほんとにかわいいよねぇ」
「気色の悪いことを言うな!」
「はいはい」
 レイヴスはため息をついてから、シャワーのコックをひねって湯を止める。そして伸びている三人を一瞥すると、まずは服を着ようと更衣スペースに移動した。
「ねぇ」
 アーデンの声が薄暗い室内に響く。
「こいつら、オレがなんとかしといたげるからさぁ。きみは着替えてオレの部屋で待ってて」
 一瞬、分厚いバスタオルで水滴を拭う腕を止めたが、すぐにまた腕を動かす。返事をする必要はない。アーデンの中でそれはもう決定事項だから。
 レイヴスが身支度を終えると、既にアーデンの姿も、あの三人の姿も無くなっていた。

 

「で、さっきの状況、詳しく教えてくれる?」
 レイヴスが仕方なくアーデンの部屋に来て、ソファで座って待っていると、部屋の主は思ったよりも早く帰って来た。そしてコートを脱ぐなりレイヴスをソファに押し倒し、体重を掛けて抱きしめながら耳元で囁いてきた。
 この部屋は帝国宰相が住まう部屋だ。厳重に施錠されているはずなのに、自分が扉の前に立つ時は何故かあっさりとロックが解除される。まるで扉が意思を持っているかのようなその挙動は不気味なのだが、この男の事だからとレイヴスは気にしないようにしている。この男は、存在そのものが少し不気味だ。
 それにしても、テネブラエのフルーレ家嫡男である自分が、宰相たるアーデンや帝国に危害を加えることは考えないのだろうか。よっぽど信頼されているのか、はたまた見くびられているのか。
 この点については、そのどちらも当たっていない気がする。
 レイヴスは先程から自分を抱きしめて甘やかす男を見上げた。
「シャワーを浴びていたら、後ろから声を掛けられた。振り向きざまに頭を抑えられそうになったから、蹴りを入れて応戦した」
 レイヴスの説明を聞きながら、アーデンは笑う。
「素っ裸でケリ入れたって? 色々と丸見えだねぇ」
「両腕を掴まれたからだ」
「将軍、すごい格好いいよ。でも状況がさ、酷い」
 アーデンは可笑しそうに笑っている。そんな事は言われずとも分かっているのだ。相変わらず嫌味な事を言う男だと思う。
「将軍がさ、部下にレイプされそうになって素っ裸でケリ入れたんでしょ? あ〜可笑しい」
「分かったならもう良いだろう、退け」
 からかうくせに、腕は優しくレイヴスを抱き、指が頬を擽る。その目には愛情とも呼べるものが篭っていて全く言動と行動が一致していない。
「あー、ごめん。別にさ、馬鹿にしてるんじゃないよ。流石だなって頼もしく思うし、ちょっと心配もしてるし、……ちょっと怒ってもいるかなぁ」
 怒っているという意味がレイヴスには分からなかった。
「考えてもみなよ。レイヴスくんが、公共のシャワー使って暴漢に襲われたなんて腹立つじゃない。勿論あいつらにだけど、きみもねぇ。なんでそんなに無防備なわけ?」
「……くだらん」
「ホントにそう思うの? 犯されたらどうする?」
「それは……」
 レイヴスは言葉に詰まった。
 将軍である自分が、同性にレイプ未遂されたから自軍のシャワールームの使用を控えるというのはどうも納得できない。そもそも力で勝てるのだし、逃げたと思われるのは立場上良くないように思う。
 それでも、もし抵抗しきれなかったら。相手が武器を持っていたら。スプレーや薬物を持っていたら。今までは無事だったが、今後も無事とは限らない。もし無事でなかった場合、自分は耐えられるだろうか……。
「まぁ、オレ以外に犯されても良いんなら、それでも良いけどね」
 アーデンの言葉がちくりと胸に刺さって、レイヴスは相手の顔を見た。目が合うとアーデンはニコリと笑う。
「あ、でもオレは良くないから。きみが自衛しないんなら、オレが自衛するから心配要らないよ」
「……は?」
「要はさぁ、あそこ使うのが嫌になっちゃえば良いんでしょ?」
 自分からはシャワー室に行かないように仕向ければ良いのだと言うのがアーデンの魂胆だ。
「上手くしてあげるからさぁ?」
 アーデンはそう言うと、レイヴスをやすやすと抱え上げて寝室に運ぶ。
「何をする気だ!」
 肩に掛けるようにして運ばれる間、レイヴスはアーデンの背中を叩いて抵抗したが、拘束が緩むことは無かった。この男を不気味だと思うのはこんな時だ。いくら大柄とは言え、長身でそれなりに筋肉質な大の男をこうも簡単に抱き上げられるものだろうか。この男はそれなりに年を食っているはずではないか、腰や肩はどうなっているんだ。
「何するって? ナニに決まってるじゃん」
「は? 決まってなどいない!」
「うるさいねぇきみは。大人しくしてなさいって」
 ぺしりと尻を叩かれてから、レイヴスはベッドにそっと降ろされた。起き上がる暇がないままにアーデンが仰向けに覆い被さって来る。
「体中に、オレに抱かれてるって印をつけてあげようねぇ。そしたら人前で服を脱ごうとはしなくなるでしょ」
 我ながら名案だなどと機嫌良くほざく男に耐えきれずレイヴスは抵抗する。しかし、寝台に体を押さえつける腕はびくともしない。
「抵抗は無意味だってまだ学ばないの? 最初の時すごい嫌がって、それで散々躾けてあげたでしょ?」
「〜〜〜!!!」
 レイヴスはアーデンを見上げながら、その顔を悔しさと羞恥と怒りに染め、歯を食いしばった。
「いい顔するねぇ、かわいいかわいい」
 アーデンはレイヴスの頬にそっと口づけてから、組み伏せた体から、先程着こんだばかりの衣服を脱がせ始めた。

 

side Ardyn

 この子はオレには敵わないくせに、一生懸命抵抗しようとする所がとても可愛いと思う。最初は本気で嫌がるけれど、結局流されてオレを受け入れる姿はもっと可愛い。健気で可哀想で、愚かで愛しくて仕方がない。
 アーデンにとって、レイヴスは庇護と愛玩の対象だ。手間暇掛けて可愛がっている所有物が他の人間にも魅力的に映るのは当然だろう。何しろこの器量だ、眩い髪に白い肌、整った顔に美しい薄青と菫の瞳。
 レイヴスに憧れと情欲の眼差しを注ぐ者共を見るのはとても気分が良かった。この男はオレだけのものなのだと思い優越感に浸ることができるから。勿論、レイヴスだってオレを特別な者として認識しているはずだ。だってオレの言う事を聞くだけでなく、組み伏せられる立場にさえ甘んじているのだから。その気になれば先程の男共と同じように蹴り飛ばすことも出来るはずだというのにだ。これが特別以外の何だと言うのか。
 互いに互いが特別である自覚があり、そしてオレはこの所有物を大切にしている。彼は生き物であるので、愛情すら注いでいる。
 それなのに、なぜこの神凪は懲りもせずに人前でやすやすと無防備になるのか。
 確かに、レイヴスが自分自身のその姿を他人に魅せつけながら、手が伸ばされようものならばことごとく薙ぎ払うのを見るは爽快だ。それでもオレとてふつふつと煮えたぎるような面白くない感情も一応持ち合わせているのだ。
 アーデンは自分の腕の中にいる男の神凪を抱きしめる。この子は少し意地悪をして躾け直してやろう。

「こら暴れないの。脱がせられないでしょうが」
「脱がせなくて結構だ! 退け! 離れろ! 触るな……ッん!」
 ちっともじっとしておらず、殴ったり蹴ったりしてくるので衣服を剥ぎ取るのに手こずってしまう。仕方がないので、中途半端に布地を絡ませた肢体に体重を掛けてのしかかり、唇で弱い場所を辿ってやる。
「本当にじゃじゃ馬だねぇ。しょうがない子だよ」
「あ……ん……ふっ……」
 首筋をねっとりと舐めあげ、顎に触れるだけのキスを贈る。それから、徐々に口元に移動し、少し開いている唇を優しく食んでから、その唇の間に舌を潜り込ませてやる。
「ぅ……ク……ぅん……」
 鼻から甘く抜ける吐息を漏らすレイヴスは目を閉じて翻弄されている。しかし今はまだ抵抗する力を残しているだろう。まずは体の芯をグズグズにして、じゃじゃ馬を大人しくさせてから乗りこなすことにする。
「レイヴスくん、キスが好きだねぇ」
「んぐ……うぅ……」
 合間に囁き、再度舌を口腔内に押し込み、奥の方で怯えて震えるレイヴスの舌を絡め取ると優しく吸い上げた。にゅるにゅると唾液を絡めながら舌をしゃぶってやったり、口の中の粘膜を舐めてやったりと愛撫するうち、レイヴスの体は段々と従順になり始める。彼の肉体でありながら支配権は彼から自分へと移るのだ。その証拠に、それまで必死にアーデンの胸板に突っ張っていた腕の力が緩み、いつしか縋るように衣服を握りしめている。
「……いい子になれたかな?」
 口を離すと互いの唇を透明な唾液の糸が繋ぎ、それはぷつりと切れた。少し酸欠になって息が上がったレイヴスが、羞恥と苦しさに目元を赤く染めこちらを睨みつけてくる。タレ目の眦には涙が溜まっていてちっとも迫力は無く、むしろ男の情欲を煽ってくる。
「クソ……このっ……」
「はいはい、良いから服脱いでね〜」
 悪態に構わず、手早くレイヴスの体にひっかかっている衣服を全て脱がした。下着まで剥ぎ取り全裸にされた彼は居た堪れないのか、生身の方の腕で顔を隠そうとする。こうして体を重ねるのはもう数回目だというのに、屈辱と羞恥は拭えないらしい。手っ取り早く快楽に屈服してしまえば楽になれると言うのに、そうできない彼の不器用さが愛おしい。
 それでこそ、手折り甲斐があるというもの。
「いつ見てもきみは綺麗だねぇ」
「馬鹿にしているのか」
「ひねくれてるなぁ、褒めてるんだよ」
 軍人として鍛えられ、大柄な部類に入る体躯を持つ男の肢体は逞しく雄々しいが、肌は肌理が細かく滑らかで象牙色、すんなりと伸びた手足は斤尺が取れていて優雅、そして仕草は貴族の男らしく凛としたものに、時折荒々しい面が覗く。これがそのうち自分の体の下で快楽にのたうつのだから最高だ。
 アーデンのキスで腰が抜けてしまったらしく、すっかり抵抗できなくなったレイヴスを置いて、アーデンは一度その場を離れた。そして次に戻って来た時には、手にシェービングフォームの缶と安全剃刀を持っていた。
「……なんだそれは」
 案の定訝しむレイヴスにニッコリと笑ってやりながら、アーデンは目的を教えてやる。
「さっき言ったじゃない? この体にオレの印ちゃんと付けてあげるって。まずはさ、ここの毛、剃ってみようか?」
 言いながら、レイヴスの淡い銀の下生えを指で梳いてやった。するとビクリと震え、まるで地の底を這うかのような怒気を孕んだ答えが返ってきた。
「貴様……ふざけるのも大概にしろ……!」
「ふざけてる? ふざけてるのはどっちかな? 毎度毎度シャワー室使うなって言ってるのに、懲りもせずによくもまぁ……。体に教えてあげないと分からないみたいだからねぇ?」
 別にそこまで怒っている訳では無いが、面白くないのは事実なので少々怖がらせるように言ってやる。思惑通り、彼はこちらの不興を買ったと思ったらしく、蹴り上げようとしてきたのでこちらが掴んだ足から力が抜けた。
「まだこんな抵抗するの、悪い子。じゃあ、今日は力尽くで行こうかなぁ」
 カチャリ、と音をさせながら怯えた顔の前に翳してやったのは、初めての夜にあまりに暴れるので拘束するのに使った手枷だ。
「ヒッ……い、嫌だ! やだっ! やだぁ!」
 初めての夜、どれだけ屈辱的に抱かれたかを思い出したらしい。それまで強気だったのが、一転してこちらに懇願してくる。この瞬間が堪らない。こうして彼の男の部分を手折ってやったのだという実感が征服欲を満たす。大丈夫だ、心配せずとも可愛い所有物に痛い思いなどさせない。
「なんで嫌なの? これ嵌めて後ろの孔にオレのを挿れて掻き回してあげたら気持ちよかったでしょ? あんあん啼いてイッちゃったじゃない?」
「いやだぁッ……!」
 嫌がって逃げをうつ体を仰向けで抱き込み、首筋にちゅ、ちゅ、と軽いリップ音を立てながら痕を付けてやる。
「ほら、綺麗にオレの印が付いたよ。大丈夫、大人しくしてて。他の部分にもちゃんと付けてあげるからねぇ」
 抱きしめられ、アーデンの首筋に鼻先を埋めるような体勢になったせいで、レイヴスはアーデンの匂いをたっぷりと吸い込んだ。絶妙なバランスで調合されている大人の男の甘さを意識したコロンと、そこに少しだけ交じる壮年の男の体臭。自分自身よりも更に逞しい男の体温に抱きしめられて身を包み込まれる安心感からか、レイヴスの体が逃げをうつのを諦める。思わずにやけてしまう顔をさも厳しい対応をしようとしているかのように引き締めるのに苦労した。
 彼の体のこの反応すらアーデンの手の内なのだ。心よりも先に体が落とされ、その内心も引きづられてくる。突っ込んでやる頃になれば身も心もとろとろになって、縋り付いてきながらあんあん悦い声で啼いてくれるのだ。それが楽しみでついつい気持ちが逸ってしまう。だが、まだだ。今日は落ちるまでの過程をじっくりと楽しむのだから。
 アーデンは抵抗を忘れ甘える体をしっかりと押さえ込むと、早業の如き手慣れた動作で彼の左手を外す。厳つい義手はガシャンと冷たい金属質な音を立て、肩口に埋め込まれたジョイント部分を残してアーデンの右手に渡った。片腕になったレイヴスが一瞬怯えたような目を向けたので、顔中にキスをしてあやしてやる。
「これあると冷たいし重いからさぁ。ね?」
 義手を外されて抱かれる事も経験済みなので、レイヴスはそれ以上怯える事無く再度体の力を抜く。だが、続いたアーデンの行動で己の置かれた状況を思い出したらしく、身を固くし我に返ったようだった。
「あっ……!? 貴様……っ!」
「はい、これで抵抗はできないよね〜」
 先程レイヴスに見せつけた手枷を素早く右手首に嵌め、彼があっと思った時には既に、もう片方の輪をアーデンが握っていた。
「ほおら、ここに手を繋いでおいてあげようねぇ」
 我ながら悪趣味だとは思うが、アーデンはレイヴスを抱くようになってから自分のベッドボード脇に枷を繋いでおけるよう金属の輪を取り付けていた。そこにレイヴスの右手首に嵌められた手枷の空いている輪を嵌める。
 レイヴスは目元を不安と屈辱に染めて泣きそうになっている。彼の左手は二の腕の途中から金属のジョイントを生やして下が無く、右手は手枷で頭上に拘束されている。その様子を眺めて満足していたら、案の定脚が抵抗を試みたので、それよりも早く彼の両方の太腿部分に座って脚も押さえつけた。ニッコリ笑ってやると、タレ目が必死に睨んでくる。
「そんな目で見ても全然怖くないから。目元赤く染めちゃってさぁ、涙が浮かんでるよ、気付いてない? 気持ちいいの想像して期待しちゃったかなぁ?」
「違う!」
 ムキになろうと無駄だ。この体はオレに屈して啼き悦がるしかないのだから。
「さぁ、再調教の時間だよ、レイヴスくん?」
 彼の太腿の上に座っていたのを足の間に座り直し、鍛え上げられむっちりとした太腿を掴んで思い切り股を開かせた。
「ひぁ……!」
「先ずはここの毛を剃り落とすから、このまま足開いててね。抵抗したら大事なとこカミソリで切っちゃうよ?」
 恥ずかしい命令になど誰が従うかといった様子で抵抗の兆しを見せたので、低く脅しつけてやる。するとしばらく無言でこちらを睨んだ後、とうとう観念したらしく、膝を立ててそろそろと脚を開き、無防備に急所をアーデンの前に晒した。
「はい、いい子。ふふふ、下の毛も綺麗な銀色。腕動かせないからお顔は隠せないよ、恥ずかしいねぇ?」
「くっ……変態め……!」
「変態なのはどっちかな? ペニスとアナル丸見えだけど……ココ、ちょっと勃ってきてるんだよねぇ」
 ココ、と言いながら指でその場所を弾いてやると、白い肢体がびくんと跳ねた。
「さて、じゃあ始めようか」
 お遊びもここまでだ。しっかりと開脚させられあられもなく晒されている彼の股間に、シェービングフォームの泡をたっぷりと吹き付けてやる。
「真っ白な泡泡から、君のピンクの先っぽが顔出してるよ? やらしいねぇ」
 言葉でも散々に嬲って羞恥心を煽ってやる。こうすれば、彼はあまりの恥ずかしさに耐えきれず、そのうち泣き出す。ぐすぐすと泣く彼を宥めながらたっぷり犯してやるのはこの上なく楽しい。
 泡を股間全体に塗り広げてから、安全剃刀の刃をそっと当てて、ゆっくりと剃毛していく。サリ、サリ、という音と引っかかる感触が、彼のそこを剃り落としている興奮に拍車を掛ける。
「ヒッ……んぅ……ふっ……」
 彼の唇から、甘い吐息が溢れ始めた。
「レイヴスくん、下の毛剃られて気持ちいいの?」
「ちが……っそこ、さわるなッ……ッ!」
 普段は叢に守られている敏感な部分を指が掠めるのが刺激になるのだろう。分かっていてわざと擽るように触ってやると、腰が揺れ始めた。泡に埋もれた叢からピンク色の先っぽを覗かせて、それが腰が揺れる度にぷるんぷるんと揺れる様はとてつもなく卑猥だった。
「もうすぐ終わるからもうちょっと我慢してね」
「ふ……っ」
 やがて全て綺麗に剃り落とすと、アーデンは剃刀とシェービングフォームを片付けに行き、代わりに今度は湯で濡らしたタオルを持ってきた。
「暖かいので拭いてあげるから」
 彼が驚かないように声を掛けてから泡を全て拭ってやる。全部拭き取った後には、すっかりつるつるになってしまったその場所が現れた。
「すごいねここ、かわいいねぇ」
 小さく口笛を吹いて感嘆してしまった。
 彼のそこは、すっかり叢を無くし心許なさそうにしている。肌の色と同じ白い性器は、先程叢の跡地を擽られた刺激に僅かに兆し始めている。ピンク色をした先っぽは早く触ってほしいとねだっているがその根本の袋はまだ張ってきていない。彼に散々愛撫を施し蕩けさせてやれば、そこは双球に白蜜を一杯に貯めてぱんぱんに膨らみ、きゅっきゅっとつり上がって吐精しようとするのだ。顔を真っ赤にして怒っている本人にもこの様子を見せてやりたい。
「袋もペニスも大きくて立派なのに、つるつるだから子供みたいですごくいやらしいよ。レイヴスくんも見る? 写真、撮ってあげようか」
「いやだ……ッ、見たくない!」
 とうとうレイヴスが羞恥に泣き出してしまった。プライドをへし折られ我慢できなくなったその瞬間、衝動的に泣き出す様が心から愛おしい。追い詰められた末に遂に白旗を揚げた心は、酷く不安がって保護を求めだす。そこに優しい言葉と温かい愛撫を与えてやれば、いとも簡単に、将軍たるこの男を甘えんぼうでかわいい生き物に変えることができるのだ。最も、それができるのは自分だけなのだが。
「見たくない? 分かった分かった。じゃあご褒美をあげようか」
「ご褒美……?」
「そう。うんと気持ちよくしてあげる」
「ふぁ……んぅ……」
 ローションのボトルを取ると、アーデンはそれを手の中に出し、指に塗りつけてレイヴスのアナルを濡らす。
「温感だから冷たくないでしょ?」
「ん……あぁ……」
 人差し指と中指でくちくちと入り口を擽り、肛門括約筋を緩めてやる。暫くマッサージしてやってから、ローションを足してそっと中指を後孔に挿入した。
「ひぃあ! あ……あ……」
 内部は温かく、ヌプヌプと濡れた感触と押し出そうとする圧を指に感じる。彼の直腸はいつも、最初は異物の侵入を嫌がって押し出そうとする。これではいい場所を触ってやれない。
「ちょっといきんで?」
 奥まで指を受け入れるように言えば、レイヴスは素直に従った。アーデンの指を付け根部分まで呑み込み、ゆっくりと波打つ。
「いい子だね。そのまま力抜いててごらん?」
 少しは自分に馴染んできたものの、体を繋ぐのはまだ数回目。大事に丁寧に抱いてやり、男に抱かれるやり方を手取り足取り導いてやらないと不慣れな体は上手く快感を得られない。
「そう、上手。気持ちいいね?」
「あ……あ……」
 レイヴスはアーデンの目を見ながら、力を抜いて深く息をし一生懸命受け入れようとする。拒むという選択肢が頭から抜け落ちているさまがいじらしい。
「んっ……ひぁっ!?」
 中を優しく掻いてやり、肉の筒が少し解れたのを見計らって前立腺を指の腹で強めに抉ってやった。途端に彼が目を見開き、びくんと体を震わせる。
「ここ、もう覚えたかな? こりっとしてるの分かる? 前立腺だよ、気持ちいいねぇ?」
「やぁっ……! あ! あ!」
 ぐりぐりとしこりを揉むようにしてやると鋭い声が上がった。前立腺と精嚢の裏、それから結腸が気持ちいいところだという事を、繰り返しこの体に教え込んでいる。反応からしてもう大丈夫だろうと、アーデンは二本目の指を咥えさせた。
「んぅ……うっ……」
 多少苦しいのだろうが、異物感は仕方がない事なので馴染むのを待たずにすぐに肉筒を二本の指で掻いてやる。レイヴスは伸び上がるように体をくねらせて腰を振った。
「ちょっと我慢だよレイヴスくん。我慢できたらコレをあげるからねぇ」
 戯れにレイヴスの臀部に自らの股間を擦り付けた。それは目の前の痴態に煽られて形を変え始めている。そろそろキツくなってきた。
 アーデンはここに来てやっと自らの衣服を脱いだ。そして仕上げとばかりに、レイヴスの蕾に指を三本突き立てる。
「ひぁぁ! んぅぅ……!」
 ローションで人工的に濡らされ、強制的に男を迎え入れる準備を施されるそこは、それでも健気に花開こうとしている。ぐちゃ、ぐちゃと濡れた音がする度、掻き回されて震える内部が指を締め付ける。ここがもう少し解れたら、孔を目一杯に開かされて滾る怒張で貫かれるのだ。そうして受け入れさせられ、男のもので直腸を穿たれ、襞を擦られた末に射精させられる。それがレイヴスに課せられた役割だった。
「アー、デ……もぅ……っも、やだ……ッ!」
 中を散々掻き回してとろとろに蕩けさせ、いよいよ本番かなと思っていた頃、レイヴスの唇から拒絶の言葉がこぼれ落ちた。
「ん? どしたの?」
「も……くるしッ……やめ……抜いて、くれぇ……っ」
 彼は目に涙に浮かべながら止めて欲しいと懇願してきた。
「苦しいの? ほんとに? ココはもう解れてオレの欲しいって言ってるよ?」
「そんな事、言う……か……ひぁっ!?」
 楯突いた仕置きとばかりに、内部に含ませている三本の指を激しくはらばらに動かして中をかき混ぜてやる。わざと前立腺のしこりを揉みしだくように指を動かしてやったものだから、彼は途端に身を暴れさせようともがきながら泣きじゃくり始めた。
「ひぁぁ! それやだぁッ!!」
「お仕置きだよ。ほら、きみのお尻の孔ぐちゃぐちゃいってるの分かる? これだけ解れてるんだから、オレの、受け入れられるよね?」
「やだぁッ! あッ……ぁあ!」
 陥落寸前で拒絶してみせるなんて、自分に対するリップサービス以外の何物でもない。彼はそんなつもりは無いのだろうが、こちらとしては彼が屈服する瞬間が楽しくてならないのだ。わざと自分から飛び込み台を高く設置してくれるのだからやはりレイヴスは可愛いくて仕方がない存在だ。
「大丈夫大丈夫、力抜いててね〜?」
 内部をいじめ抜いた指を抜いてやると、ほっとしたように彼が体から力を抜いた。その隙を逃さずに、彼の脚を折りたたむようにして抱え込むと一息に根本まで貫いてやった。
「あああああ……ッッ!!!」
 ぐちゅんと濡れた音を立てて、自らの赤黒く猛った怒張が、男の神凪のピンク色にふっくら腫れたアナルに呑み込まれる様子は何度見ても興奮する。最奥まで突き立ててやると、彼が子犬のような鼻にかかる声を漏らした。
「……っ、すごいよ、ナカ、とろとろで絡みついてきてる……あー、きもちいい」
「くっ……ふ……」
 レイヴスも男に貫かれ、満足したような甘えた吐息を漏らしている。結局彼はこうして自分に屈してしまうのだ。太いもので中を擦られるのが好きなように躾けたのは自分だし、自分の腕の中で安心して眠るよう教えたのも自分だ。この子を解放するつもりなど毛頭ない。
 アーデンは彼の太腿を抱えて腰の下にふかふかの枕を入れてやる。こうすれば腰が高く上がった状態で姿勢が固定されるので、結腸まで突いてやり易くなる。
「アーデン……下が、なんか……」
 レイヴスの声に、結合部に意識がいく。
「お前のが……擦れて……ッ」
「ああ、ほんと。いやらしいねぇ?」
「ふっ……」
 レイヴスは叢を剃り落とされいわゆるパイパン状態だ。そこにアーデンの叢が擦れ、今まで味わったことのない刺激を感じたのだった。隠すものが一切なくなったレイヴスのペニスは上を向き、先端から透明な粘った雫を零し始めている。そこに自らのワインレッドの陰毛が擦り付けられる様はとても卑猥だ。
「ねぇ、オレに抱かれるの、好き?」
 珍しく、下手に出たような睦言を囁いてやる。するとレイヴスは閉じていた目を開いて、アーデンを見つめて答えた。
「……嫌いでは、ない……」
 恥ずかしそうにこちらを睨みながら、それでも十分に甘えた声で答え、脚をアーデンの腰に絡めてきたので上出来だ。結合はそのままに体を倒し、呻いた彼の唇を優しく食む。
「そう。それなら良かったよ」
 くちゅ、くちゅと甘く舌を絡ませながら、だんだんと口付けは激しいものとなり、次第に互いの口腔内を貪り合うようなものになる。
「んんう……ふぐっ……んんん」
 アーデンがゆったりと腰を使ってやると、レイヴスがくぐもった呻きを漏らす。そのまま腰を回すようにして最奥を抉ってやりながら、今日はまだ触れていなかった彼の乳首を指の腹で挟んでこすってやった。
「ッぷは……っ! あっ! やぁぁ!」
 三点攻めの強烈な快楽に、レイヴスは口づけに耐えられず酸素を求め、止まぬ刺激に身をくねらせる。
「気持ちいいでしょ? どう? そろそろイけそう?」
 ぐちゃ、ぐちゃ、とアーデンの怒張がレイヴスの肉筒を擦り上げている。もう少しで極まりそうになってレイヴスはこくこくと頷いた。
「頼む……前を擦ってくれ……」
「ダメ。結腸攻めしてあげるからナカだけで射精しなさい」
「っひ!」
 言い終わらないうちに、彼の腰を抱えなおして上を向かせ、真っ白な尻たぶを両手で開く。
「や……あ! あ! ――――ッ!!」
 そしてねじり込むようにして、彼の結腸の入り口の、普段は閉じている門を亀頭で抉じ開けてやると、組み敷いた体がびくんと跳ねた。
 見れば、精を吐き出したらしくレイヴスのペニスが白濁に濡れている。門を開かれた刺激でイってしまったらしい。
「こら。イく時はそう言いなさいって教えたでしょ?」
「あっ! あっ! ひぐッ!」
 ごぷ、こぷ、と細く縊れた場所を犯しながら窘める。犯される体は過ぎる快楽と激しい刺激に泣きじゃくりながら、右手を拘束する手枷をじゃらじゃらと鳴らした。
「はずしッ……これっ! ……っぐ! あ! あぁ!」
「だめだめ。今日はこのままだよ」
「やだっ! やだあ!」
「我慢して。寝る時ちゃんと抱っこしてあげるからねぇ」
 きっと自分に縋り付きたいのだろうと思うが、せっかく淫らな遊びをしているのだから今夜は最後までこのまま楽しもうと思う。終わった後でたっぷり甘やかしてやれば良い。抱きしめて、髪を梳いて、耳元で優しく名前を囁いてやり、首筋に顔を埋めさせて。
 うとうとし始めたら、背中をさすってゆっくりと眠りの世界に連れて行ってやろう。一晩中、オレの腕の中で安寧に満ちた眠りを与えてやろう。
「ンっ……ん……んぅ……アーデ……」
 気持ちよくて口が寂しくなったらしい彼がしきりに唇を舐めているので、こちらの指を口に含ませてやった。彼はもうほとんど理性が飛んでしまって完全な甘えモードに入っているらしく、従順に指をちゅうちゅうと吸っている。
「おいしい?」
「んむ……んぅ……」
 清廉な雰囲気の神凪が、男の指をしゃぶるさまはなかなか良い光景だ。今度からフェラチオも仕込むことにしようか。
「……っふ……レイヴス、出すよッ……ック!」
「んんん!」
 うねる内部にこちらも限界で、欲望の蜜を叩きつける。それを受け止めた最奥が、縊れを締め上げるようにしてこちらの欲望を全て搾り取り、ひくひくと呑み込んでくれた。

 


side Ravus

 自分で自分が理解できない時がある。例えば、今、この男の腕の中で微睡んでいるこの状況がそうだ。
 下衆な軍の人間に襲われる時には嫌悪感と蔑みしか湧いてこない。何の感慨もなく、躊躇いもなく、実力行使で蹴散らすのみ。同性に組み敷かれる趣味も、ましてや特別な感情を抱くことも無い。

 この男は、祖国と母の敵である帝国の、宰相だ。
 この男は、何を考えているのか分からない。
 この男は、時折とても気味が悪い。

 この男は、自分を決して見捨てない。 

 この腕をなくしてしまったら、自分は迷い猫のように当て所無く彷徨うのだろうか。
 この腕に抱かれ、安寧の中眠ることに慣らされてしまったのだ。
 この腕に抱かれ、性の欲望をぶつけられる時、そこに嫌悪感はない。

 時折、この男の寝顔に見とれる自分がいることを誤魔化しきれなくなっている。

「どうしたの? 寝付けない?」
「……いや、もう寝る……疲れた」
 ははは、あれだけ喘いだらねぇ、とふざけた言葉を発した男の脚を軽く蹴る。口の減らない奴だ。
「……おやすみ、レイヴス」
 男の分厚い胸板に顔を埋めるととても安心した。大きな手の平が背中をさすってくれる。深呼吸すると、甘い香りと、ほのかに男の体臭が香る。
 
 安寧と安らぎに身を任せ、レイヴスは目を閉じた。 

 

Fin

​20170426

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