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2019/07/29

 暑い。なんだってこう灼けるような陽光の強さなのか。テネブラエに居た時にだってこんな暑さは感じた事が無いのに、更に北に位置するグラレアのこの気候はどうだ。
 不機嫌な態度を隠しもせずに文句を垂れたところ、男は自慢げに講釈を垂れた。
「ヒートアイランド現象って知ってる?」
「……?」
「へえ、知らないんだ。グラレアはコンクリートジャングルでしょ? 熱が溜まるわけ。きみの住んでたテネブラエは、緑がたくさんあるし土の地面が多いから冷え
るけど、ここは冷えないから」
「……ふん。ならば俺はテネブラエに帰る」
「何それ! 暑いから実家に帰った将軍なんて、軟弱すぎて話にならないよ!」
 大笑いされて更にイライラする。あまりにうるさいので、黙らせてやることにする。
「……っ!?」
 おもむろに振り返って無精髭の目立つ口元に自分の唇を押しつけた。一瞬だけ間を置いて、すぐに離れてやったら目を白黒させていて、ざまあみろと少しだけ溜飲が下がった。
「……どういうこと?」
「黙れ、余計に暑くてかなわん」
「なぁんだ、……ちょっと嬉しかったのにさぁ……」
 おい貴様、そんな性格では無いだろう。なぜ落胆したような声を出すんだ。そして俺はなぜ動揺しているのだ。気にする必要は無い。どうせすぐまたいつもの調子を取り戻す。
「……暑いのがいけないんだ」
「うん?」
 暑いと、お前と抱き合うことすら億劫だ。
「……テネブラエに来い。そこでなら、応じてやる」
 暗に昨夜断った行為を示すも、男は何の事か分からないらしい。意図を理解しかねた顔をしている。
「……分からないなら、良い」
 男の顔が見られなくて、俯き加減のままレイヴスは歩き出した。
 いつだってそうだ、俺は言葉が足りない。
 クーラーの効いた執務室へ退散しよう。きっと暑さに頭が沸いたから、血迷った事を言ってしまったのだ。

 

2019-07-29

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