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マシュマロお題:夏の暑さにぐったりしながらアイス買いに行くアデレイ

アデレイちゃんアイスを買いに行くの巻
現パロになりました。なんか良くわからないけど同居してる設定です。
お互い相手を振り回す的な、どっちもお姫様?的な。リクエストありがとうございました😄

 今まで静かだったクーラーがまた元気に稼働し始めた。忙しなく、そして穏やかに、交互に動き室内の気温を一定に保っているのだ。レイヴスの設定した温度は27度。アーデンは26度にしてくれと頼んでみたのだが、筋肉を冷やすのは体に悪いと言って無下にされてしまった。
 白金の柔らかい髪をふわりと持ち上げる風。
「いくら温度高めに設定したって、直で風受けてちゃ意味無いんじゃない?」
「やかましい」
 なんだよレイヴスだって暑いんじゃないか。そう言ってやりたいのは山々な
のだが、口にすると彼が拗ねる。口をきいてくれなくなるのは切ないので黙っておく事にした。
 レイヴスはソファに座って新聞をめくっている。
「休みの日だってのに、余念がないねぇ」
「休みの日だからこそゆっくり情報収集しているんだろうが」
 邪魔するのならあっちに行け。レイヴスに追い払われてしまい、仕方なくアーデンはとぼとぼキッチンに逃げた。アイスコーヒーでも淹れようと思ったのだ。
 希釈すればすぐに飲めるコーヒーに水と氷を入れて、ガムシロップとミルクを添える。それをリビングに持って行ってレイヴスに手渡してやれば、彼はきょとんとしてから、素直に「ありがとう」と言ってグラスを受け取った。
「折角の休みだっていうのに、こうも暑いとどこにも行けないねぇ」
「やめておけ。熱中症で倒れるのが関の山だ」
 凛と涼やかな声は相変わらず厳しい。もうちょっとデレてくれてもいい気がする。
「あ~~、暑いよう……レイヴスくんと夏を満喫したいよう」
 勘弁してくれ、といった様子でレイヴスが嫌そうに顔を顰めた。うるさくて敵わないって顔をしているがアーデンはわざとやっているのだ、こうしてごねると時々は甘やかしてくれるから。
「……クソ! しょうがない奴だな! ……そこのコンビニまでなら付き合ってやる」
「え~、それだけ?」
「この暑いのに一緒に外出してやるだけ感謝しろ」
 仕方ない。コンビニで我慢するか。アーデンは玄関でビーチサンダルをはいた。
「おいそれは俺のサンダルだ!」
 足を入れた瞬間にレイヴスから抗議が入った。バレたか。
「だって自分の出すの面倒なんだもん、良いじゃん貸してよ~」
「水虫がうつるだろうが」
「水虫!? ねえ流石に酷くない!? 俺水虫じゃないし! 知ってるでしょ!?」
「あ~も~、ぎゃーぎゃーとうるさい男だな! この暑いのに更に暑くなるだろうが!」
 だってレイヴスくんが水虫とか言うからじゃん~、という俺の主張は華麗に無視された。レイヴスはシューズクロークを開けるとごそごそと中身を探して、お目当ての物を見つけたらしく取り出した。
「あ、それ俺のサンダル」
「貴様が俺のをはくからだろうが!」
 へえ、水虫とか言うくせに俺のサンダルはくのは平気なんだ~。と思ったが口にするのは止めた。今そんな事を言おうものならサンダルを投げつけられかねない。レイヴスの体育会系の肩から繰り出される全力のサンダル投擲なんて、当たったら青痣くらい朝飯前でできるだろう。
 レイヴスはアーデンのサンダルをひっかけると玄関のドアを開けた。途端に、むせ返るようなむわっとした湿気と熱風が体を包む。
「うあ~、あっついなぁ~」
 レイヴスはアーデンには構わずずんずんと歩いていく。アーデンも慌てて後に続く。ミンミンと響き渡るセミの鳴き声、照り付ける太陽。アスファルトの熱でサンダルの裏が溶けるんじゃないかというくらいだ。
 アーデンは横を歩くレイヴスの足元を見る。彼は普段はわりと上品な格好を好むので、オフの日でもチノパンとポロシャツといった出で立ちだ。だが流石にこの暑さには敵わないらしく、アーデンと同じように薄手のTシャツに、同じく薄手の膝までのゆったりとしたハーフパンツを穿いている。そこから覗く脛は真っ白だ。サンダルをはいているので綺麗な形をした脚の指まで晒している。すんなりと伸びる足の指、綺麗なピンク色の爪……。
 ゴンッ!
「……いでッ!」
 レイヴスの足に気を取られている隙に電柱に激突してしまった。
「酷いよ教えてくれたって良いじゃない」
 隣を歩いていたレイヴスは驚いている。きっとアーデンが前を見ていなかったとは思わなかったのだろう。それでも元来の意地っ張りのせいで、前を見ていないお前が悪い、などと言っている。顔には、痛そうだ、と書いてあるくせにね。
 ぶつけたおでこをさすりながら、先を行くレイヴスを小走りで追いかけた。
「……ねえ、なんかさ、笑っちゃうよね。大の男が二人して暑い暑い言いながらさ、サンダル交換して歩いてるなんて」
 お前のせいだろう、と言うレイヴスはそっけない。まったく情緒ってもんが無いよね。いい年した大の男二人がこんなことしてるなんて、まるで青春に戻ったみたいで甘酸っぱいねって言いたいのにさ。あれだよ、カルピスのCMにありそうなシチュエーションじゃない? 夏の恋! 実際は大人の男二人だけど。
 10分程歩いてやっとコンビニに着いた。今の家は部屋が広いから二人で住むのに丁度良いんだけど、ちょっと不便なのが難点だなぁ。レイヴスにはもう少し駅近にしようって提案したけど、「お前は好きな所に住むと良い、俺はここに住む」って言ってさっさと契約しちゃったものだから、仕方なく転がり込んだんだけど。でもレイヴスくんってば、「俺は一人暮らしが良い」とか言ってた割に二人でも住めるからってこの家探して来たんだよ、可愛いよもんだよねぇ。
 コンビニの自動ドアをくぐる。軽快なメロディーと共に、きつめに効かせた冷房の風が出迎えてくれた。
「ふあ~~、涼し~~~、生き返る~~~」
 レイヴスも気持ちが良いらしくほっと息をついている。その顔は上気して赤くなり、うなじには汗が流れている。色白の彼が日焼けすると真っ赤になってしまうので、帰ったら顔を冷やさせなければ。首の後ろも拭いてやらないとあせもができてしまう。
「ねえ、どれにする?」
「……」
 二人仲良く並んでアイスを選ぶ。あぁ、なんて平凡で平和なのだろう。幸せってこういうのを言うんだろうな。
 レイヴスはアイスキャンディ、俺はチョコもなかを選び、レジで支払いを済ませた。
「……よし、覚悟決めた?」
 俺の言葉に、レイヴスは一瞬怯んだ後、神妙な顔つきで一つ頷いた。これから再び灼熱地獄の中進まなければならないのだ。
 いざ、覚悟を決めて店を出る。ありがとうございました~の声に送り出され、快適な冷房に別れを告げて二人は元来た道を歩き出した。
 来た時と同じように10分歩いてようやく家に着く。エアコンをつけっぱなしにしてきて良かった、ひんやりした空気が気持ちいい。
「あ~、暑かった……涼しい~」
「お前がコンビニに行くなんて言うからだろうが……、チッ、溶けかけている」
 レイヴスはガサガサと音を立てコンビニ袋を漁り、自分の分のアイスキャンディを取り出して封を切っている。ぱくん、とキャンディの上部分を咥えると、アーデンの最中も出して渡してくれた。
「優しいね~、ありがと」
 アイスもなかを齧りつつレイヴスを見ると、ぺろぺろとアイスを舐めている。時折上の部分を咥えたり、口から出したりする様を見ているととてもいけない気分になって来た。
「レイヴスくんエッチだね~」
「は?」
「アイスの食べ方がさぁ、俺の咥えてると……」
「皆まで言うな」
 アーデンが何を言おうか察するや否や、ぴしゃりと遮られてしまった。
「いいじゃん、俺が何かした訳じゃないんだからさぁ」
 ひどい、レイヴスくん無視は良くないと思うよ。
 レイヴスはもくもくとアイスを食べ続け、棒だけになったそれをじっと見ながらポツリと呟いた。
「俺は部屋の方が良い」
「え?」
「……外がこんなに暑くては……、お前にくっつくこともできん」
「……何それ、甘えてるの?」
「……知らん」
 レイヴスは立ち上がると棒をごみ箱に捨ててさっさとリビングから出て行こうとした。それをアーデンが逃すはずもなく、後ろからぎゅうと抱き締めて拘束する。
「暑い、くっつくな」
「今くっつきたいって言ったじゃん」
「汗臭くて寄りたくないと言っている」
「照れ隠しでしょ? 知ってるよそんな事」
「違う……、俺が、だ。汗をかいているからシャワーに……」
 お、これはこの後OKって事だな?
「分かったよ。じゃあ先に行っておいで」
 こく、と頷いてレイヴスが脱衣所に向かった。アーデンは隣の寝室にしている部屋のエアコンを入れに向かう。
 思う存分くっつけるように、しっかり部屋を冷やさないとね。

 

2018-07-27

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