top of page

逢瀬

 

 コツ、コツ、と靴音を響かせながら、男が一人廃墟のような通りを歩いていた。人影も無い午前2時。男はこの日の荷物を無事に届け終え、帰宅する途中だった。こんな時間に頼まれる仕事は、それなりの報酬とリスクを伴った。

 コツ、コツ、と靴音が響く。それ以外に何も音がしない。風すら吹かないエッジの街はまるで永遠の眠りについたかのようだった。時すら止まったかのような。気配がない。何も生気を感じない。静寂だけの夜。

 

 男が突然、ぴたりと足を止めた。辺りは完全なる無音となる。何もない、何もいない、はず。

「──────俺に何か用か」

 無表情で、身じろぎ一つせずに男がポツリと言った。途端に、辺りに満ちる不気味な気配。

「──────ほーお、つれないことだな。恋人との逢瀬にはぴったりの夜じゃないか」

 クラウド……。男の背後の暗闇から、別の男がヌッと現れた。長い銀髪。碧色に煌めく瞳。ふわり、と風が吹く。銀髪が撫でられて靡く。

「ふざけるな。あんたの顔なんて見たくないね」

 セフィロス……! クラウド、と呼ばれた方の男はここに来てようやく背後を振り返り、銀髪の男をきつい目で睨みつける。セフィロス、と呼ばれた方の男は、唯その視線を受け止めるだけ。

「そう怒るな。少し久しぶりだな」

 細められる碧の輝き。弧を描く唇。クラウド。クラウド。背の高い、美しい男が呼ばう。静かで深い声音。金髪の男の顎をその長い指でそっと持ち上げると、キスをした。

 暫くの間、くちゃり、という淫靡な音が響いていて、それから二人はそっと口づけを解いた。透明な糸が唇と唇を繋ぎ、ぷつりと切れる。

「悪かった。機嫌を直してくれ、クラウド」

「別に。機嫌が悪いなんて言ってない」

「ならば、私を見ろ」

 そう言って、蒼い蒼い瞳を覗き込もうとする碧。

「ほう、私に抗うか」

 そっぽを向いてこちらを見ようとしない恋人に焦れ、銀色は今度はやや乱暴に金色の顎を掴むと、ぐいと顔を上げさせた。

「……あんた、昔から強引だよな」

 はあ、と諦めたようなため息をつき、金色はようやく碧の瞳を見る。燐光を放つ、冷たそうな瞳。その唇が楽しそうに口角を上げて囁く。

「お前相手には多少強引に行かないと何もできやしない」

 絡み合う視線。静寂に落ちる睦言。

「そうやって俺のチェリーを奪った訳だ」

 金髪がさも面白くなさそうに言う。

「嫌じゃなかっただろう?」

「ああ、嫌とは言ってない」

「嫌どころか、嬉しいのだろう?クラウド」

「今回はどこで油売ってた?」

「お前の気を惹くことしか考えていないさ」

 ふうん。金色が興味がない様子で返事する。

「じゃ、それを証明して貰おうか?」

 しっかり埋め合わせしろよ。ようやく能動的に銀色を見つめた。そのまま相手の首に腕を回しぐいと引き寄せると、強引に屈ませた唇を奪った。冷酷そうな美貌に喜色を浮かべる銀髪。

「ああ。期待していろ」

 夜の帳の中、世界から身を隠すかのように、金髪を抱きすくめて路地裏へと連れ込んだ。

「あ……はぁ……んん……」

 ちゅぷ、ちゅぷ、と濡れた音が響く。クラウドは裏路地の建物に背を預け、かろうじて立っている。セフィロスはその足の間に跪くようにして口淫を施していた。

「あっ……っく…! ……セフィロス……こんな所、人が来たら……」

「誰も来ないさ。さっきからずっと二人きりだ……」

「あっん! ……ふ…でも……ぅん……」

「まだそんな事を考えられるとは、余裕だな」

 何も考えられなくしてやろう。

「あっ……!!」

 ますます激しくなる水音。根元まで深く咥えられて、喉の奥で先端を愛撫される。舌は裏筋を舐めしゃぶり、性器全体をキツく吸われる。

「やっ……も! あ……イく、イく……」

 クラウドが限界を訴えた矢先、セフィロスは口を離した。舐められ、てらてらと光る肉棒に外気が触れて、クラウド自身はふるりと少し縮こまった。

「クラウド……。イくのはまだ早い……」

 言いながらセフィロスは身を起こし、クラウドの体の向きを変え壁に手をつかせる。クラウドが振り返った。切羽詰まり、解放を望む目元が潤んでいる。縋るような目を向けられ、セフィロスは背筋をゾクゾクとした支配欲が走るのを感じた。このまま、一思いに犯したい……。セフィロスは衝動を堪え、まだ固い蕾にクラウドの先走りを塗りつけると、彼の背に覆いかぶさるように立って後ろの攻略を開始した。何度か蕾のシワを伸ばすように揉み込んでやった後、ゆっくりと中指を挿入する。途端に上がる嬌声。

「クラウド、力を抜け」

 耳元で囁いてやりながら、クチュクチュと後孔をかき回す。中にあるしこりのような部分を押してやれば、クラウドが息を詰めるのが分かる。

「はあ……っく! ……ん…!」

 徐々に甘くなる吐息。コリコリと、セフィロスはクラウドが感じるところを集中的に攻めてやる。

「はぅ……も……そこ、やめろ……」

 クラウドが身を捩ろうとするが、しっかりと抱き込まれていて叶わない。その赤くなっている耳元に、セフィロスは唇をつけるようにして吹き込んでやった。

「素直になれ。……感じているくせに……」

 更に指をもう2本挿入し、3本の指を揃えて激しく抜き差ししてやる。クラウドのそこはやがて十分に解れた。

「は……クラウド……」

 セフィロスは性急に前をくつろげると、勃起した性器をクラウドの蕾に押し付け、ゆっくりと挿入した。

 

 はあ、はあ、という吐息が静寂の路地裏に響く。相変わらず風一つ吹かない。

「は、……セフィロス……、お前、溜まってるのか?」

「お前だって同じだろう……? お前に餓えているのさ」

 お互いに欲望を吐き出し、繋がりを解かないままに息を整えながら、睦言を交わす。セフィロスは相変わらずクラウドに覆いかぶさるようにして背後から抱きしめていた。

「離せ……重い」

「終わった途端、ソレか?」

 いい加減、少しはつれない態度を改めたらどうだ? まったく不満そうではない声音で言い返し、セフィロスは自身を抜き取り、クラウドを開放する。彼がこちらを向く。

「セフィロス……」

 クラウドは目をつぶってキスをねだった。

「ん……」

 セフィロスはクラウドの唇にゆっくりと自らの唇を近づけると、顔を傾けてしっとりと重ねた。

 

 

 クチュ、クチュ、と舌が絡み合う。追いかけ、追いかけられ、口内で混ざり合う唾液。唇を離すと、銀色に光る糸が二人を繋ぎ、ぷつりと切れた。

 セフィロスはクラウドの萎えている砲身を育てようと手を伸ばす。しかし止められた。

「クラウド……? なぜ……?」

 訝しげにクラウドを見る。

「あんた、俺の気を引くことしか考えてないんだろう? 証明してくれるって言ったな」

 今度はクラウドがニヤリと笑う番だった。訝しんでいるセフィロスの腕を急にグイと引いて体勢を崩させると、そのままアスファルトに仰向けに押し倒す。驚きながらもセフィロスは、クラウドをじっと見つめる。

「随分と乱暴だな」

 口元を薄っすら笑ませて、挑発的に見上げる。

「期待して良いんだろ?」

 目を眇めて、獲物を追い詰める肉食獣の視線で射抜く。

「あんた、溜まってるらしいしな」

 しっかり悦がらせてやるよ。セフィロスはぐいっと強引に顎を押さえられ、荒っぽく唇を貪られた。

「んんぅ………む! ちょ……ク、クラウド……」

 ぷは、と唇が離された瞬間思い切り酸素を補給して、セフィロスが慌てる。

「ちょっと待て……その、今夜は……」

「抱いてやるよ、期待して良いって言ったじゃないか」

「違う……あれは、そういう意味ではなくて……」

「もう遅いね」

 たっぷり啼きな。クラウドは言うや否や、セフィロスのコートに手をかけ、留め具を外す。

「ちょ、ちょっと待て!」

「待てない。往生際が悪いぞ。大人しくしてな……」

 腹当と胸の前でクロスさせているバンドを性急に外し、荒っぽく下着ごとボトムをずり下げる。ぶるんっ、と飛び出した砲身はすでに臨戦態勢。

「なんだ。あんたイヤイヤ言う割にヤる気満々じゃん」

 いや、ヤられる気か。セフィロスは顔を赤らめて横を向く。クラウドはその鍛え抜かれ、それでいて妖艶な白い肢体にゆっくりと覆い被さった。

「あっ…く!」

「セフィロス、力抜け。怪我するぞ?」

 はあ、はあ、とセフィロスは忙しなく吐息を漏らす。後孔にクラウドが指を突き立て、ゆっくりと挿入しようとしていた。

「全く、しょうがないな……」

 ぎゅっと締まり、指一本ですら受け入れようとしない後孔にクラウドは焦れて、組み敷いた体をうつ伏せにひっくり返し膝を立てさせる。

「クラウド……何を……」

 振り返り戸惑いの声を上げるのを無視して、クラウドは蕾に舌を這わせた。

「ひっ……!! やめろ! クラウドっ!」

 途端に講義の声が上がるがガッチリと押さえ込んだ腰を離すことなく、襞を一つ一つ伸ばすかのように舐めねぶる。ぴちゃぴちゃという水音がやけに大きく響いた。

「く……ふぅっ……ん」

 時折袋の裏までねぶってやりながら、後孔を濡らしていく。やがて入り口が緩んでくると、クラウドは口を離し一気に指を二本挿入した。

「ああああ!」

 顎と背を反らして衝撃に耐えるセフィロス。にちゃにちゃと中をかき回してやれば、は、は、という吐息がこぼれてくる。

「ほら、早く蕩けな……」

 クラウドはセフィロスの背に覆いかぶさりながらグチュグチュと後孔を攻める。三本の指を飲み込む頃には、セフィ ロスは快楽に息も絶え絶えだった。頃合いを見て、クラウドは再びセフィロスを仰向けにした。

「セフィロス、息吐けよ」

「あああ─────っ!」

 クラウドは自身の怒張した肉棒を秘孔に宛がうと、一息に根本までズップリ挿入した。

「……っく! クソっ……クラウド、好き勝手やったな……! ああっく!」

 衝撃が過ぎ去り、セフィロスがクラウドに抗議すると、ずん、と前立腺を突き上げらた。

「生意気な口を利くやつにはお仕置きだな」

 そのまま激しく揺すぶられる。

「ああう! ……あ…んん……」

 乱暴に抱かれているのに、セフィロスは興奮しきっており、口元からは唾液が溢れる。

「は……あんた、めちゃくちゃ締まる……たまらないな」

 あんたも気持ち良いな? 問いかけながら、右手をセフィロスの股間に回して性器をやわやわと揉んでやる。セフィロスはただ快楽に流され、されるがまま。

「っは! セフィ……中、出すぞ……!」

 先にクラウドの限界が来て、追い上げがきつくなる。

「ふざけるな……っ! 抜け!中出しなんてするな……! あ! ……突くな、そこ突くなっ! ……ひぃいいっ!」

ゴ リゴリと弱点を抉られ、セフィロスは涙を零しながら喘ぐ。後孔に精液を注がれるなんてまっぴらだと思っていたが、既に間に合わず、そのままクラウドに射精される。セフィロスは腹の中に熱い飛沫が迸るのを感じた。

「…はっ……! あんた、良すぎ、締まる……!」

 うねる腹の中に最後の一滴まで注ぎこむ。セフィロスがイき切れなかったので、一度抜いて指を挿入し、前立腺を突きながら性器を擦ってやる。

「あっ……クラウド、もう無理だ! あ……ああああ!」

 ビクンと背を反らして体を硬直させながら、セフィロスは欲望を吐き出した。は、は、と荒い息をつく。クラウドが自身を抜き取ると蕾からは、中に注がれた白濁が滴り、セフィロスの太ももを汚した。

 

 

 ──────にゃあ。

 突然聞こえた音に、二人は同時に振り返る。そこには黒猫が一匹、座った体勢でこちらを見ていた。翠の瞳に、引き絞られた瞳孔。漆黒の毛皮。猫と二人と、ほんの短い間、見つめ合った。睨み合ったとは云えなかった。視線は絡めど、少なくとも黒猫の瞳からは何の感情も読み取れない。ただ、二人の逢瀬をじっと見ているだけだった。いつから見ていたのかも分からない。二人と一匹の間に妙な緊張感が走る。───この獣は、全てを知っているのだろうか。

「猫か……。全く、脅かさないでくれ」

 静寂に耐えきれなくなったかのように、クラウドがぽつりと呟いた。妙に大きく声が響く。

 にゃあ。黒猫は、まるで何事もなかったかのように路地裏の奥へと消えていった。彼の獣はこちらから目を逸らした瞬間、もう金と銀のことなど、忘れていたのかもしれない。跡形もなく、走り去った。

「びっくりしたな」

 猫が去った細い道を眺めながらセフィロスが呟いた。クラウドは返す。へえ、あんた今でもびっくりなんてするの。

それを聞いた男はニヤリと笑うと、キスを仕掛けようとする。まるでクラウドの問いを誤魔化すかのようだった。

「とんだ邪魔が入ったな。……クラウド、続きだ」

 セフィロスはクラウドをそっと抱きしめて、優しく唇を重ねた。

「なあ、さっきの黒猫。まるで、あんたみたいだな」

 クラウドは言う。二人して縺れるようにしながら入った無人となって久しいであろう空き家。誇り臭いベッドの上で、金髪と銀髪は事後の余韻を楽しんだ。

 金色と銀色が肢体を絡ませ合い、その色を混ぜるかのように、束の間の逢引を楽しんだベッド。朝日が差してくるころには、既に金色だけになっていた。青い目がそっと開く。傍らに彼の半身を探すが、既に居ないと気付くとため息を零した。

「まあ、どうせまたフラッと現れるし」

 いつだって、何処からともなく現れ、いつの間にか居なくなる。

 ────────私はいつだってお前のそばにいるさ。

 声が聞こえた気がした。部屋には自分一人だけ。

 金色の髪の男は、手櫛で髪を整え、廃屋を後にした。

 

Fin

​20150909

PixivにUPした際には、リバCPという特性に配慮しCS、SCそれぞれのパートで投稿を分けていました。

そのため、SCSで読むと200%楽しめて、SCで100%、CSで100%を目指しました。

どちらかだけを読んでも繋がるストーリーにする、っていうのが存外に難しかった。

奪われた「チェリー」は、どっちでしょうね 笑

bottom of page