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落し物

 

「ん? なんだぁ?」

 ある日の神羅ビル。トレーニングルームで汗を流していたザックスは、落し物を見つけた。近くで見てみれば、どうやらハンカチのようだ。拾い上げて広げてみると、可愛らしいチョコボ柄だった。こんな場所に落ちている、という事は、持ち主はソルジャーだろう。もしかすると科学部門の研究員とか忍び込んできた社員(たまに神聖なるトレーニングルームで秘密の逢瀬を楽しんでいる輩がいる)かもしれないが、可能性としては低い。ザックスはしげしげとハンカチを眺めた。薄いクリーム色の布地にデフォルメされた可愛らしいチョコボのプリント。小さなリボンまでついている。

「女子社員のかな~とも思うけど……」

 まあ、まずはソルジャーフロア内で持ち主を捜した方が良さそうだ。こんな可愛らしいハンカチ    を使うソルジャーとは一体どんな奴なんだろう。気になる、物凄く気になる!

 ザックスはそのハンカチを持って、トレーニングルームを後にした。

 

 ザックスがハンカチを持っていそいそと持ち主探しに出かけた頃。自らの落し物に気付いた人物がいた。史上最強のソルジャーと謳われるその人は、互角の腕を持つと言われている茶髪の色男と共に、昼食を摂りにカフェテリアへと向かう途中だった。

「む」

「どうした、セフィロス?」

「いや……ハンカチを落としてきたようだ」

「ほう、どんな奴だ」

「お前に貰ったチョコボのやつ」

 せっかく貰った物なのに済まない、と、しゅんとするセフィロス。あれはこいつのお気に入りなはずだからな。可愛い奴め。ジェネシスはクスリと笑った。

「どこで落としたか検討はつくか?」

「うーん……あ、最後に使ったのはお前と遊んだ時」

 この二人は、アンジール抜きで先程までトレーニングルームで戯れて……もとい、イチャついていた。何も、公共の場でアヤシゲな事をする訳では無いのだが、如何せん二人きりになると空気が甘い。

「それならばまだそんなに時間が経っていないから、先にそっちに寄ろう」

 ジェネシスはセフィロスの手を引いてトレーニングルームに向かった。

 

 ハンカチは、既に無かった。

 ざわざわと喧騒でごった返す神羅ビル内のカフェテリア。隅の席にソルジャークラス1st2人は座り、昼食を食べていた。

「おかしいな、別の場所だろうか……」

 セフィロスは味噌汁を啜りながら記憶を辿っている。

「誰かが拾ったのかもしれないじゃないか」

 スパゲッティをフォークで巻きながら、ジェネシスはのんびりと構えている。まあ、ゆっくり探そうじゃないか。実は二人きりでプチ探検ができる事を内心喜んでいる。

 そこへ、最近アンジールが可愛がっている「仔犬のザックス」がやって来た。

「あれ? セフィロスとジェネシスじゃん! お昼一緒に食っていい?」

「ああ、もちろん。ここに座れ」

 ジェネシスはザックスに空いている席を勧めてやった。こいつは他の奴と違って、セフィロスに対して無駄な緊張や余所余所しさを見せない。そんな誰にでも分け隔てなく接する明るい気質を、アンジールを含めたクラス1st三人組はとても愛していた。彼の今日のお昼は天丼のようだ。二人きりは暫し中断だな、と思いつつ小さく苦笑する。

「いっただきまーす!」

 ザックスはぱんっと顔の前で手を合わせて、割り箸を割るとがつがつとどんぶりから飯をかき込む。相変わらず元気だ。無駄に賑やか。

「いい食いっぷりだな」

 セフィロスが見守るような優しい視線で見ている。全く、我が女神は何時もながらに大天使様だな。ジェネシスも微笑みながらザックスの食事を見ていた。

「あ、そう言えば」

 ふと、ザックスがどんぶりから顔を上げた。口の端に米粒が付いている。

「さっき、トレーニングルームでハンカチ拾ったんだ」

「!!」

 セフィロスとジェネシスは顔を見合わせた。

「それが可愛いんだよ。ほら!」

 ごそごそとポケットを探り、チョコボ柄のハンカチを2人の前で広げて見せた。

「こんな可愛いハンカチ持ってるソルジャーって誰なんだろうな」

 ザックスは屈託なく笑う。きっと、本当だ、誰のだろうな?なんて答えが返ってきて、話が弾むと思っているんだろう。セフィロスはやや気恥ずかしい気持ちになった。ジェネシスは必死で笑いをこらえている。

 まあ、言い出すしかないだろう。だってジェネシスに貰ったお気に入りのハンカチだ。セフィロスは覚悟を決めた。それに、恥ずかしがるのも貰ったジェネシスに申し訳ないし。セフィロスはとても純粋で天然だった。まさか、贈り主のジェネシスが、「チョコボ柄のリボン付きハンカチを使う英雄」に対する周りの反応を、こっそり面白がっているなんて夢にも思わない。ジェネシスもなかなか鬼畜な恋人だった。

「……おれだ」

「ん?」

「そのハンカチ。おれのなんだ」

 セフィロスはザックスの反応を待った。案の定、ザックスは何を言われたか分かっていないような間抜け面を晒している。数秒固まった後、

「えーっ!? これセフィロスのなのか!?」

 素っ頓狂な声を上げた。ジェネシスは遂に我慢できずに笑い出した。セフィロスにジトッと睨まれたが、面白いんだから仕方が無い。一応、すまない、と謝罪の言葉を口にしたが、目尻に涙を浮かべてひいひい言っているので全く効果が無い。セフィロスは仏頂面でハンカチを受け取ると、そっと懐に仕舞った。拾ってくれてありがとう、ときちんと礼も忘れない。

「そっか、これセフィロスのだったのか。意外だったわ〜」

 ザックスは既に衝撃から立ち直り、2人を見てまたニカっと笑った。

「いや〜こんなに早く持ち主が見つかるとは思わなかったから良かったぜ」

「俺がプレゼントしたものだ。こいつはチョコボが好きだからな」

「なるほど! 彼氏からのプレゼントってやつ?」

 ニヤニヤしながらからかってやると、セフィロスは仏頂面のままふいっと横を向いてしまった。耳が赤くなっている。

「照れてんの? かーわい。そういや、こないだセフィロスがさぁ」

「なんだ、我が恋人が何かしたか?」

「したした。かーわいい失敗」

二人はセフィロスの話題でひとしきり笑った。当の本人はもう恥ずかしくて居たたまれなくて、逃げ出す算段をしていた時だった。

「はぁ〜あ。あ、おれそろそろ行くわ。午後イチで仕事入ってんだわ」

 笑い終えたザックスが言い出し、席を立った。いつの間にやらどんぶりの中身が空になっている。

「ああ、またな」

 ジェネシスが優しい顔で送り出す。

「気をつけていけ」

 セフィロスも微笑んで言った。

「何? セフィロス心配してくれてんの? ありがとう、愛してるぜ!」

 ザックスはセフィロスに投げキッスをして走り去る。本当はほっぺにチューくらいしてやりたかったけれど、横でこわーい彼氏が睨みを利かせているから、今日の所はこれでガマンだ。最も、おふざけでしかないが。

「さあ、俺たちもそろそろ行くか」

「ああ」

 二人も席を立ち、オフィスへと帰る。

「ハンカチ、あって良かったな」

「ああ、無くしかけて悪かったな」

 廊下を歩く二人に、また甘い空気が流れ出す。

「構わないさ。デートができて良かった」

 ジェネシスは恋人を慈しむような視線で見た。

「……ところで、今晩どうだ?」

 少し目を細めて、流し目で誘ってやる。セフィロスはパッと顔を赤くして、俯きがちになる。

「……今日は、早めに帰れそうなんだ」

 控えめながら、OKのサイン。

「では、そちらの部屋にお邪魔するから、帰って待っててくれ」

「ん……」

 そして、それぞれのオフィスへと別れた。

FIn

20150925

​FFオンリーで配ったペーパーでした

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