「だから、仕事だって言ってるだろ!」
「だめだ。許さない」
さっきから押し問答で全く埒が空かない。
「どうしてあんたはいつもそうなんだ!」
「お前が大事だからに決まってるだろうが」
「だったら! 少しは俺の好きにさせろって」
「いいや、だめだ。お前がかわいいが故に心配しているんだ」
「~~~!!!」
そんな風に言われれば、腹が立つ反面、やはり嬉しくて、でも照れくさくて、クラウドはもう強く言えなくなった。
「……なあ、大丈夫だって。心配してくれてありがとう。でも、本当に何もないから」
「……そこまで言われれば、私が折れるしかないだろうが……」
そんな風に、心配そうな顔をしないで欲しい。クラウドは背伸びをして、恋人を安心させるように頬にキスをした。
「だってしょうがないだろう、掻き入れ時なんだから」
「そうは言うがな、クラウド。お前のかわいらしさにクラっと来た輩に、不埒な事をされるかもしれないだろうが」
「それ、クリスマス関係なくない?」
「一人寂しいクリスマスを送る男が、お前に癒しを求めるかもしれないだろうが」
「……あんた、本気で言ってんの……?」
自分は何も間違った事は言っていないとばかりに片方の眉だけ上げてみせるセフィロスを、クラウドは胡乱な目で見た。自覚がないだけに危ないんだ、とセフィロスはぶつくさ言う。
「全く、いくらクリスマスが掻き入れ時だからと言って、こんなにたくさん仕事を入れる事はないだろう」
「だって、みんな俺を頼ってくれるんだよ? 断る理由がないじゃん」
セフィロスは、はーっ、とため息をついた。
「……仕方ないな、クラウド」
渋々、クラウドの配達の量を認めたのである。
クリスマスは、プレゼントやグリーティングカードの配達の仕事がたくさん入る。クラウドは当然のように予定をギッシリ詰め込んだ。セフィロスはそれが面白くない。
「全く、恋人を放っといて仕事とはな」
「あんただって、神羅時代はそうだっただろ」
いつだって俺を放っぽいて任務三昧だったじゃないか、と口を尖らせる。そんな顔をかわいいと思いつつも、言い返す事ができずに押し黙るセフィロス。
「……クラウド」
「あ、違うよ、違う。怒ってるんじゃないもん、仕事だから我慢してって言ってるだけ」
「嘘をつくな。今、少し拗ねただろうが」
「拗ねてない!」
かわいいやつめ、とセフィロスは少し機嫌を良くする。
「もう! にやけた顔するんじゃない!」
怒ったように言うクラウドの顔は赤く染まっていた。
「じゃあ、そろそろ行ってくるね」
コートを着て、肩から荷物のたくさん入ったバッグを提げて。マフラーも巻こうとしたら、自分で巻くより先にふわりと首にかけられ、そのまましっかりリボン結びを作られた。大きな手のひら、長い指が首筋をくすぐる。
「気をつけて行け。暴漢に襲われるんじゃないぞ」
「だから! 俺を襲ったりすんのはあんたくらいなの!」
「……ほう、では帰ってきたら覚悟しろ」
「な!?」
「……襲ってやろう」
耳元に唇を寄せて、低く甘い声で囁かれて、ときんと鼓動が高鳴った。
「……ば、ばかな事言ってないで先寝てろよ!」
恥ずかしさを紛らわそうと、クラウドはバタバタと出て行く。後ろにクスクスと笑う声を聞きながら、勢い良く玄関のドアを閉めた。
「いつまでたっても、初々しいやつめ」
一人残されたセフィロスは、クラウドの反応に笑った。
全く、いつも自分をからかうんだから。仕方ない奴だよ本当に。クラウドはバイクを走らせて、配達先を回る。街のイルミネーションが綺麗だった。24日の夜。
風が冷たいな、と自覚した瞬間、マフラーを巻いてくれたセフィロスの大きくて綺麗でしなやかな手を思い出す。バカ! 今思い出すな! クラウドは誰もいないのに恥ずかしくなって小さく頭を振った。
景色がびゅんびゅんと流れて行き、コートがはためく。
クリスマス。家に一人で置いてきて、ちょっと可哀想なことしたかな。セフィロスの事をクラウドはぼんやりと考えた。そして、その恋人らしい甘くやわらかい思考に苦笑する。
昔の恋人で、その後命を取り合う死闘を繰り広げ、その後も執着され続け。気がつけば、半ば攫うようにして同棲させられ、なし崩しにヨリを戻して今に至る。我ながら波乱万丈な関係だな、と苦笑する。
それでも、今、平和に一緒に過ごせるから嬉しい。散った命を考えれば、少し罪悪感もあるけれど。それでも、もうあの人を一人にはしたくない。
順調にバイクは走った。
クラウドが帰って来たのは、もう少しで日付が変わるかという時刻だった。
「ただいま……」
案の定、電気はついていて、セフィロスはクラウドを待って起きていた。
「おかえり、クラウド」
「ん、先寝てて良かったのに」
玄関までクラウドを出迎えに来る。
「そうはいくまい。出掛けに私が言った事、覚えてるな?」
「な! ……やだ、今日は疲れた!」
「ダメだ、クラウド。次は私のわがままの番だ」
そのままひょいと肩に担がれて寝室に運ばれる。ベッドに放り投げられ、スプリングに体が跳ねて起き上がれないところへのし掛かられた。
「クラウド、いい子にしていろ……」
マフラーを解いてコートを脱がされ、抵抗しようとするのをキスで封じられる。
「ん! ……ふ……ん……」
クチュ、クチュ、と濡れた音を立てながらされるディープキス。舌を入れられ、口内を愛撫されるうちに、クラウドの抵抗はすっかり弱まっていた。頭がぼうっとし、体には官能の火が灯りかけている。
「……かわいがってやろう」
甘く耳元で囁かれる。
クラウドは目を閉じ、そっと腕をセフィロスの背に回した。
服を脱がされ、全身を余すところなく愛撫され。快楽が羞恥に勝り始めたところで、ローションをまとった指が、クラウドの後孔へゆっくりと入ってきた。
「あっ………ああ! あん!」
「上手いぞ。……力を抜け……そうだ」
ゆっくりと息をして、セフィロスの指を根元まで飲み込むと、褒めるように額に口づけが落とされる。
「いい子だ、クラウド。すぐに悦くしてやろう」
「ああ……っや! ああっ……!」
くいっと指を曲げて、ふっくらと腫れたかのようなしこりを押さえられた途端、クラウドの体が跳ねた。
「ここがイイんだろう? 気持ちいいと言ってみろ」
「やああ! あん……ひっ!」
「……ほら、言ってみろ、クラウド。気持ちいいな……?」
もう一本指を挿入され、二本揃えた指で弱い部分を擦られて、クラウドは涙を流して悶える。
「ああぅ! いい、いいからぁっ……」
「そうか、ならば、もっと悦くしてやろう……」
「ひあっ!」
さらにもう一本、指が潜り込んでくる。バラバラに指を動かして、セフィロスはクラウドの後孔に準備を施す。
「ああん! も、やだ、あああ!」
「ダメだ、まだイくな」
イけないように性器の根元をもう片方の指で押さえられたまま、後孔に挿入している指で散々に啼かされる。
「も、無理っ……! くるし……」
涙を流しながら、クラウドはセフィロスに哀願する。
「嘘をつけ。……ほら、ここは気持ちいいと言ってるぞ……?」
指で作った輪で性器をゆっくりとしごかれる。しかし、輪がきつくて射精できない。後孔は止むことなく解されて、もうクラウドは息も絶え絶えだった。この責めから解放される方法はただ一つ。セフィロスの欲望を受け入れて、その逞しいもので愛されれば、クラウドは射精を許される。
「セフィ……っ、も、入れて……おねがっ……!」
クラウドが叫んだ瞬間、後孔に挿入されていた指が抜き取られ、代わりに猛ったセフィロスの性器を一息に挿入された。
「うっあ!」
セフィロスが前を戒めていなければ、そのまま達してしまっただろう。脳髄まで痺れるような快楽が背筋を駆け抜けた。
「クラウド、クラウド……」
正常位で繋がったクラウドの体をしっかりと抱きしめて、セフィロスが深く腰を入れた。ゆっくりと、しかし執拗な抜き差しが始まる。
「んんん………あん……」
首をそらせ、枕に後頭部を押し当ててクラウドが喘ぐ。セフィロスはその唇を自分の唇で塞ぎつつ、徐々に律動を速めていった。
「もう! また痕だらけだ」
「私のものに所有印をつけたまでだ。問題あるまい」
ばしゃっと湯をかけて抗議しても、セフィロスは平然としている。
「隠すの大変なんだからな!」
「ほう、お前は私以外に肌を見せる気か」
「そんな事言ってない!」
二人で入った風呂でも、結局出かけと似たようなやりとりをしていた。クリスマスのムードもへったくれもない。
「セフィロス。まだ言ってなかったけど、メリークリスマス」
セフィロスは、意外だとばかりに片眉をくいっと上げた。
「あんたにも、人並みのイベントを味あわせてあげたくてさ。明日、じゃなくてもう今日か、夜はご馳走にしよう」
「ああ。……クラウド、ありがとう」
「ん」
チュッと、啄むようなキスを交わす。
「だがクラウド。私はもうご馳走をいただいてしまったな」
お前をたっぷりとな。
そう耳元で囁かれたクラウドは、再びセフィロスにばしゃりと湯をかけた。
Fin
20161218