「クラウド、これが着物、というウータイの伝統衣装だ」
そう言ってセフィロスが手渡してきたのは、直線的に作られた服と、細長くて分厚い布、それから白っぽい下に着るための布やら小物やら、たくさんの衣装類だった。
「服を脱げ、着せてやる」
「え、俺がこれ着るのか?」
「もちろん。お前に似合いそうな色を選んだんだ」
着物は水色に花柄、細長い布は紺色だった。
「これは帯と言って、着物をこれで留めるんだ」
セフィロスは説明をしながら俺の衣服に手をかけ、脱がそうとする。
「いや、着物は分かった。けどなセフィロス、これ、女物じゃないのか?」
「ん?」
「えらく華やかじゃないか。どう考えても女物だ」
「よく気付いたな、だが問題あるまい。お前は女装が得意だからな」
「嫌だ! 絶対着ない!」
「そう言うな、ほら、髪飾りもあるぞ」
そういう問題じゃない。けれどその気になっているセフィロスは嬉々として俺に女物の着物を着せようとする。こうなったコイツを止められないことは、今までの経験で十分分かっていた。
「そう嫌そうな顔をするな。おれも着るさ」
「え、セフィロスも着るの?」
訝しんでいれば、いそいそと自分の分の着物を出してきた。だがそれは、どう見ても俺のものとは違う。
「……そっちはちゃんと男物なんだな?」
なんで自分だけ女装なんだ、と不満をぶつけても、セフィロスはどこ吹く風。服を脱がされ、セフィロスの手で女物を着せられていく。
けれど、だんだんと女装させられる事なんてどうでも良くなっていった。セフィロスの長い指が襟元を調え、後ろから抱きかかえるように着物の前を合わせられ、帯を締められる。体が密着して、セフィロスが動くたびに銀の髪がさらりと俺の顔にかかり、甘い香りがする。
ドキドキしてきた。
「よし、できた」
暫くのあと、セフィロスにそう声をかけられてはっとする。な、なにをときめいているんだ俺は!
セフィロスは、今度は自分の着物を着始めた。
「……てかさ、なんであんたこんな物着せられるわけ?」
セフィロスはクスリと笑った。
「ウータイ出身のやつに習ったんだ」
「……ふーん」
相変わらず、よく分からない事に情熱を燃やす奴だ、と思った。
「お前と一緒に着たくてな」
不意に耳元で囁かれて。心臓がドキドキいってる。
「この後、一緒に『初詣』に行くぞ」
「なんだそりゃ」
「ウータイ名物。正月にやる行事の一つだ」
セフィロスは自分の分の着物を着終わって、俺の手を引いて家を出た。俺は不覚ながら、セフィロスの着物姿にときめいた。
「縁結びの神様、というのがいるらしいぞ」
「……あんた、まさかそこに行く気?」
「当たり前だろう?」
ニヤリ、と笑いながらこちらを見る翠の瞳。
「帰ったら、『姫始め』だ」
なんだそれ? 目線で問う俺の耳もとに、奴が答えを吹き込んだ。その内容を聞いた途端の俺の顔は、きっと真っ赤になっていただろう。
Fin
20160102
2016年のお正月SSとしてフォロワー様に押し付けたものです