ピンクのリボン
その日はとても平和な1日で、ジェネシス、アンジール、セフィロスの三人は早めに自室へと帰宅した。週末は三人のうちの誰かの部屋で三人揃って過ごす事が多い。今日も例に漏れずだ。
ジェネシスは自室で着替えを済ませると、アンジールに電話をした。向こうも心得たもので、3コールも鳴らせば応答した。
「アンジール、今日はおまえの部屋で良いか?」
「ああ、良いぞ」
「じゃあ、今日はアレ、試してみよう」
「ついにやるのか?」
「ふふ。楽しみだな」
「俺は後が怖いんだが」
「じゃあ、お前抜きでやって良いな?」
「……共犯者になろう」
「そうこないとな。ふ、大丈夫さ、今更怒るものか。でなければこんな事になっているはずがないだろう?」
それもそうだな、なんたって相手はセフィロスだ。怒るのならばとっくにこんな関係は解消されているだろう。そして下手すれば、俺たちはとっくにセフィロス自身に始末されていただろう。だが現状はこの通りだ。
アンジールは納得して、話を続ける。
「分かった。じゃあ、夕飯の準備をするから、今から言うものをセフィロスと2人で買ってきてくれ」
「今日もご馳走になって良いのか?」
「いつも通り大したものじゃない、遠慮するな」
「いつもすまないな、アンジール。じゃあ、ソッチの準備はしておいてくれ」
「そっち……? 特に準備するものはないだろう?」
「紐がいる」
「……ああ、そうか。ちょうど良いのはないな……。待て、髪留めがある」
「髪留め?」
「あいつが俺の部屋に置いてあるやつ」
「……それは妬けるな。こっちにはないぞ」
「信頼されてるからな俺は」
「どうだか……。髪留めはダメだ、あいつが今後使えなくなる。いい、俺が適当なのを持っていくさ」
「珍しく配慮するじゃないか」
「心外だな、いつだって俺は紳士だろう。俺たちのお姫様には」
「どうだか……」
アンジールに先ほど自分が言った皮肉をそのまま返される。ジェネシスはその会話のテンポの心地よさにクスリと小さく笑った。
「じゃあ、後でなアンジール」
「ああ」
やがて聞こえてくる通話終了の音。アンジールはベッドルームに行き、着替えた服を片付けて、夕食の材料が届くまで新聞を読む事にした。
「セフィロス、食材の買い出しに行ってからアンジールのうちに行くぞ」
ジェネシスは、今度はセフィロスに電話をかけた。セフィロスも3コールほどで電話に出た。
「分かった。10分くらい待ってくれるか?今着替えているところなんだ」
「急がなくたって良いさ。準備できたら俺の部屋に来てくれ」
「分かった」
「じゃあな」
程なくして、ジーパンにシャツとスニーカーのセフィロスがジェネシスの部屋の呼び鈴を鳴らした。
ジェネシスとアンジールが画策していること、それはなんとも下世話なことだった。セフィロスの体にドライを覚え込ませる。ジェネシスがアンジールにそう言った時、アンジールは呆れたような顔をした。
でもジェネシスにはお見通しだった。アンジールだって自分に負けず劣らずムッツリだってことが。
セフィロスはあまり性的なことを知らない。引く手数多だろう彼は、意外にもそういったことをほぼ知らないままに過ごしてきていた。知り合ってから数々の戦場を共に戦い、いつしかセフィロスの親友となった2人は、そんな彼の無垢なところに付け込んだ。
いつからか友愛が恋情に変化していたジェネシスは、セフィロスを口説き落とす事に成功した。しかしアンジールもセフィロスに恋い焦がれるようになっていたらしく、上手く便乗された。幼なじみで親友だったアンジールとジェネシスが、共にセフィロスを口説いた結果、3人で恋人のように過ごすという今の関係と相成った。
ジェネシスが自分でも意外だったのが、アンジールとセフィロスを「共有」している、と言っては聞こえが悪いが、まあそんな状態な事に違和感がない事だ。それはアンジールも同じようだ。結局、俺たちにとっては「3人で」いる事が重要らしい。
セフィロスはといえば、最初は3人で恋人として過ごす、つまり情事に及んだりすることに戸惑ったようだが、結局押し切られて今に至る。もともと、何が普通かなんて知らないから、わりと葛藤はなかったようだ。セフィロスもまた、この3人でいる事が何よりも心地良いらしい。
そして、ジェネシスとアンジールの事を「恋人」として認識もしているらしい。一度ジェネシスが揶揄いがてら、「ザックスに押し倒されたらどうする?」と尋ねてみた。すると彼は、憮然とした顔をして、「あんなことはお前たち以外とはしない」と言い放ち、さっさとその場を後にした。
その後彼はしばらく不機嫌で、機嫌を直してもらうのにとても苦労したが、その時のセリフはジェネシスを舞い上がらせるには十分だった。
「ジェネシス、りんごがある。あれも買っていこう。お前たちはりんごが好きだ」
大型のスーパーマーケットでセフィロスはジェネシスと共に買い出しをしていた。りんごが山になっているのを見て、1つ手に取りカゴに入れる。セフィロスはジェネシスとアンジールの喜ぶ顔を見るのが好きだった。普段顔には出さないが、実はセフィロスは2人にメロメロだった。自分が、彼ら2人の前でだけは、甘えたになってしまうことを自覚し、少し照れくさく思っている。
「ちょうどバカリンゴを切らしていてな。また実家から来たら食べに来いよ」
「ああ、楽しみにしている」
何気ない日常を3人で過ごすことがセフィロスは大好きだった。今日もアンジールの部屋で夕食を摂った後は、3人でコトに及ぶんだろうな、と思いつつも、まだこの後自分がされる行為など知る由もない。今までも、散々2人(主にジェネシス)に振り回されてきたのに、相変わらず疑う事を覚えないのが天然たる所以だ。
「アンジールが待ってるな」
セフィロスはジェネシスと共に、アンジールの部屋へと歩き出す。
「セフィロス、先に風呂に入っていいぞ」
アンジールは夕食の後片付けを手伝うセフィロスを促し、風呂へ行かせた。セフィロスが俯いて若干頬を染めたところを見ると抱き合う事には了承しているようだ。ジェネシス発の企みを思えば少しかわいそうになるが、結局のところ自分もやってみたい。
ジェネシスと作戦の打ち合わせを始めた。
「アンジール、紐はこれでどうだ?」
ジェネシスが取り出したのはピンク色のリボン。全く如何にもなチョイスだ。ジェネシスらしい。
「……おまえらしいな」
「そう言うな。お前だって良い選択だと思っているくせに」
「……あんまり泣かせたくはないな」
「いや、しっかり啼かせてやるさ。恋人を可愛がろうとしているだけだ。何も悪いことなんてしていないだろう?」
「……お前に何を言ったって無駄だったな」
「共犯者になる、といったのはお前だ」
「悪かった。否定しない」
セフィロスはまだ出てこない。3人がシャワーを浴びたら、作戦決行だ。
明かりを落とした寝室には淫靡な空気が流れている。
「セフィロス……、セフィ、何も怖いことなんかしないから、力を抜いておけよ……」
ジェネシスはそう囁くと、ベッドにセフィロスを仰向けに押し倒し、その上に覆い被さる。
アンジールはベッドの端に腰掛け、セフィロスの髪を撫でている。
「……ん」
優しく施されるキス。最初は、羽のように触れるだけ。そのうちリップ音を立て始め、それは濃厚になる。絡み合う舌と舌。その粘膜をにゅるにゅると擦り合わせながら、ジェネシスはセフィロスの咥内の弱点を暴く。
「……っふ、ちゅ……ぁむ……、くぅん……」
セフィロスは目を閉じてうっとりとキスに夢中になっている。アンジールが目を細める。
ジェネシスは薄眼を開けて、自分の組み敷いた色白の肢体からゆっくりとバスローブをはだけさせる。唇を離せば、飲みこみきれなかった唾液が糸を引いて、プツリと切れた。セフィロスの潤んだ瞳がジェネシスの瞳を見つめる。
「ジェネ、シス……」
はぁ、というため息と共にこぼれ落ちた囁きが、今夜の情事の始まりのサインだった。
「んぅ……、あっ! ……っく!」
はぁはぁ、とセフィロスは忙しない呼吸を繰り返す。背後からアンジールにかかえられるように抱かれ、アンジールはベッドボードに凭れて座っている。その腰の後ろには枕を挟んで、腕はセフィロスの、赤くぷつりと勃ち上がった胸の飾りを愛撫している。両方の先端を親指と中指でキツくつまみ、てっぺんを人差し指で擦ってやる。
「はぁぁっ……! っや! アンジール、しつこ……ふぅん!」
セフィロスが必死に胸を反らして逃れようとし、指はアンジールの両腕に食い込み爪を立てる。チリリとした痛みさえも、今のアンジールには興奮を高めるスパイスにしかならない。
「セフィ、諦めろ。痛くはないだろう?」
そう囁いたジェネシスは、セフィロスの前に陣取り、その白く筋肉のついた太ももを押し開き、ゆっくりと舐め上げたり、時折きつく吸い上げ花びらを散らしたりしている。その中心では、ゆるりとセフィロス自身が頭を擡げ始めている。
「痛くないものかっ……! も、腫れるだろ……っやめ……やめろと言ってる……あんっ!」
抗議の声は、ジェネシスによって遮られた。セフィロスの半勃ち状態のものに舌が這わされる。数回ゆっくりと根元から先端へ、男ならば弱い裏筋を舐め上げてから、ゆっくりと口に含む。手はやわやわと袋を揉んでやる。
「いいい……っ、っあ! はぅぅ……あぁ……あん!」
乳首と性器を同時に責められ、セフィロスはもがきながら快楽に悶える。背後からアンジールにがっしりと抱かれ、下半身はジェネシスに抑え込まれた状態では、いくら体をよじっても、誘うように体をくねらせるだけにしかならない。
「煽るな、セフィロス……これでも耐えているんだぞ」
「ど…っこが! あ! やめっ……アンジール! 離せっ! ああん!」
熱い吐息を漏らしながら、セフィロスの耳元で囁いたアンジールは、弄っている乳首をきつく抓りあげ、軽く引っ張ってやった。セフィロスは喉をそらせて喘ぐ。
「気持ちがいいんだろう?セフィロス……お前の、もうぐしょぐしょだぞ……」
ジェネシスの指摘にハッとセフィロスは自分の下半身に視線をやる。そこには、男の唾液と自身の先走りでテラテラと濡れ光り、愛撫を待ちわびてそそり立ついやらしい自分自身があった。
セフィロスは、見たことを後悔しながらきつく目を瞑る。その時、涙が一筋流れた。
「どうした、このくらいで。いつももっとすごい事をされているじゃないか。ほら、足をしっかり開いて、膝立てて……」
そう言うと、ジェネシスはセフィロスに大きくM字開脚の姿勢を取らせ、アンジールに手渡されたローションのキャップを開ける。とろりとした粘性の高い液体を手に零し、セフィロスの後孔に塗りつける。
「……っふ……」
くちゅ、と音を立て、蕾はジェネシスの愛撫に応える。固く口を結んでいる後孔がわずかに開き、ひくひくと収縮し始める。
頃合いを見計らい、ジェネシスはその長く美しく、しかしやはり男性らしい節ばった指を挿入する。まずは1本、人差し指。
くちくちと音を立てながら、入口を中心に解していく。はん、はんと喘ぐ声が小さく寝室に響く。
逸る気持ちをなだめつつ、ジェネシスは指での愛撫を続ける。その間、アンジールは首筋や頬にキスしてやり、手のひらでゆっくりと上体を撫でさすってやる。セフィロスはそっと目を開け、目の前でゆるく勃ち上がっているジェネシスの砲身に手を伸ばし、ゆっくりと愛撫を始めた。
やがてセフィロスの下の口がジェネシスの指を3本飲み込んで、腹がゆっくり波打ち出したところで、ジェネシスが指を抜く。
「俺が最初でいいか、アンジール?」
「ああ、そうしてやれ」
ジェネシスはセフィロスの太ももを抱えて、セフィロスによって臨戦態勢へと育てられた自身を蕾に押し付け、ゆっくりと後孔を押し開いていった。
「あぅ……ああ……あぅぅぅぅ……」
最近は男に抱かれることに慣れてきた体も、最初の挿入時は苦しそうだ。アンジールが優しくなだめ続けてやりながら、根元まで呑み込ませる。
「……っふ、はぁ……セフィ、全部入ったぞ……」
ジェネシスは額に汗しながら、セフィロスに口付ける。体を折り畳まれる苦しい態勢で呼吸を奪われたセフィロスはくぐもった声を漏らす。
「うぅ……く……ア、ンジールは……?」
「っく……そうだな。セフィロス、1度抜くぞ。後ろを向いてくれ」
「セフィロス……、すまんな」
ジェネシスはずるりと自身を抜き取ると、セフィロスを四つ這いにさせる。アンジールはその頭を優しく引き寄せ、頬に自らの怒張を擦り付けた。セフィロスは真っ赤になりながらも、口での奉仕を開始した。
「ふ……ん…あむ…んぐ……うぐっ!!」
ジェネシスはセフィロスの腰をホールドして、再度侵入を試みる。アンジールを噛ませないように、ゆっくりと腰を進める。
「はぁ、気持ちいいよセフィ……、お前のナカ、きついな……」
胎内に馴染むのを待ってから、ジェネシスは律動を開始した。
暫くの間、アンジールとジェネシスの熱い吐息、セフィロスのくぐもった呻き声、卑猥な水音と、時折ベッドが軋む音が寝室を侵食していた。やがて耐え切れなくなったセフィロスがアンジールから口を離し、背を反らした。
「……はぁっ! ……あぁぅ! あ! ───────っ!」
「っく! キツ……っ!」
まずは1回目、セフィロスは射精した。ジェネシスも持っていかれそうになったが、寸での所で耐え切れた。あくまで、まずはセフィロスをイかせることに集中する。責め立てる2人の楽しみはこれからだ。
その後、アンジールが今度は背面座位をとってセフィロスを貫いた。ジェネシスのものよりも逞しい砲身を自重で深く受け入れ、首を反らせながら苦しげに喘ぐ。
ジェネシスはセフィロスのものを口淫する。前後を同時に責められ、程なくしてセフィロスは2度目の射精に達した。
はぁはぁと息を弾ませながら、セフィロスは訝しむ。おかしい、今日は自分は既に2度もイかされているのに、2人は欲望を解放しようとしない。出すものを出して若干冷静になりつつある頭で、嫌な予感がする、と思った。
「ジェネシス、アンジール……。何か企んでいるか……? なぜイかない?」
「そんなことは無いさ、セフィロス。今日はお前をうんと気持ちよくしてやろうと思ってな。ちょっと我慢しているんだ」
ジェネシスは内心の企みを隠しながらセフィロスに微笑んでやる。気持ちいいには気持ちいいだろうが、受け入れる側からすればちょっと苦しい快楽を教えようとしている。
セフィロスは、そう言われてしまえば何も言えず、大人しく横になる。だが、すぐに跳ね起きようとする。ジェネシスが、なぜかセフィロス自身にピンクのリボンを巻きつけようとしたからだ。「な……っ!? おい、何をしている!?」
ぎょっとして飛び退こうとしたが、時既に遅し。2回も絶頂を味わってすっかり弛緩した体では素早い動きなど到底できない。それでもセフィロスがなんとか阻もうと本気の抵抗を始める。
「セフィ! ちょっとじっとしていてくれ!」
「ジェネシス! これがじっとしていられるか! アンジール、どういうことなんだ!?」
「すまないセフィロス、今日は俺はジェネシス側だ」
「なっ…! ちょ、何す……」
アンジールは、セフィロスから脱がせたバスローブの紐を拾い、その両腕を後ろに回させる。セフィロスが戸惑っている隙にそのまま後ろ手に縛った。はっとしたセフィロスをしっかりと抑え込む。
「さすがに、お前に本気で抵抗されたらこちらの身が危ない」
ジェネシスが大げさに肩を竦めながら、入浴前に自らが脱いだシャツを持ってきて、セフィロスの拘束された腕に巻きつける。そのまま袖の部分をしっかりと結ばれてしまえば、もはやセフィロスが自分で解けるものではなかった。
「ごめんよセフィロス。だが、お前こうしないと暴れるからな。大人しくしていてくれ、決して傷つけたりしないから……」
ジェネシスが宥めるように言ってセフィロスの瞼にキスする。
アンジールはセフィロスの上体を起こし、先ほど抱いた時と同じ体勢を取らせる。そして、膝の後ろに腕を入れて抱え上げ、幼児に用を足させるような体勢にした。
「やめろっ! 嫌だっ! ジェネシス、見るな! ……あっ!?」
アンジールにしっかりと抑え込まれてもはやセフィロスは抵抗ができない。いくら英雄といえど、快楽を味わった後の体を後ろ手に拘束され、さらに1st 2人がかりに抑えられては勝ち目はなかった。
それでも体を捩って必死の抵抗を試みたが、無情にもジェネシスのいたずらは完遂されてしまう。視線を下げれば、自らの性器にピンクのリボンが巻き付けられている。しかもリボン結び。
耐えがたい屈辱に、とうとう涙があふれ出した。
「ああセフィ、泣かないでくれ。本当にただ、お前を気持ちよくしてやりたいだけなんだ」
「……っく、なんでこんな……、いつもみたいに、普通に抱いてくれればいいじゃないか……」
「セフィ、お前には俺たち2人で色んなことを教えてやりたいんだ。恋人に対する男の独占欲だと思って、少し付き合ってくれ」
「アンジールまでそんなことを……おれだって男だが、そんな気持ち分からないぞ……」
「お前が可愛くて愛しくて、俺たちはついこんな事をしてしまうんだ。お前が愛しくてたまらないからだ……」
ジェネシスが勝手極まりない言い分を言って、セフィロスに優しく触れるだけのキスをする。
そのまま、顔中に口づけ、涙を吸い取ってやる。
「ん……ふ……」
セフィロスは結局、2人のこんな愛情表現に絆されてしまう。嫌だ、と、こんなアブノーマルな事をしないで欲しいと思いながらも、結局はこの2人を慕う気持ちと快楽に流されていく。
……今日も勝てない。セフィロスは内心自嘲しながら、ゆっくりと目を閉じ、背後のアンジールに体を預けた。
「痛いのは、嫌だ……」
ひとつだけ、注文をつけるのを忘れずに。