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優しい束縛

 

 

「こら、セフィ……暴れるんじゃない……」

「……っふ! あ! あっ……!」

 彼が背を弓なりに反らす。ピンと伸びたつま先がシーツを掻く気配。彼の上半身をしっかりと抱きしめて、耳の後ろにキスしてやる。ベッドがギシリと音を立てた。

 これは身長が私より高いけれど、その差分は要は足の長さなワケで。正常位で抱き合うと、そんなに座高は変わらないんだなぁと改めて思う。まぁ、少し悔しくはあるけれど。

 腰を捩って逃げようとするのは条件反射だな。だって前立腺に当たってるから。その快感は凄まじいらしい。

悦くてたまらないんだろう、顔がとろけてる。

 顔だけじゃなくてアソコも。

 早く出し挿れするのではなく、深く挿入したままゆっくりとグラインドしてやる。

 はぅぅ、とため息のような喘ぎが彼の口から零れる。下の口からもにちゅりといういやらしい音。

 筋肉質で男性的な魅力を十分に備え、それでいて儚く妖艶。たまらなく淫蕩なのにどこまでも清廉。こっちの嗜虐心をこれでもかってくらい煽ってくれる。

「ひぃっ! ─────っ! あああっ!」

 普段、低くまろやかに響く声は、今は切羽詰まった喘ぎを零す。彼の前は溢れる透明な粘液ですでにぐちょぐちょ。腹筋がびくびく痙攣し始めた。この分ならドライでイくだろう。

「セフィ、うんと悦くしてあげる。ドライでイかせてあげるからね」

 彼のピンク色に染まったかわいい耳朶をねぶりながら囁くと、それまでとろけていた視線がはっとしたようにこちらを見る。内心ニヤリとした。わざわざ宣言してやるのは、これの焦った反応を引き出したいがため。

逃げられもしないのにおろおろとするこれを見るのは本当に愉しい。我ながら意地が悪いと自覚はあるものの、これを前にしたら仕方ないだろう。

 これは魔物だ。

 清廉な顔をして男をその魅力に引きずり込む、淫蕩な魔物。強く気高く美しく、同時に危うい儚さでもって見る人を惑わせる。性格を知ればもっと惑わされる。こんなにも素直で純粋で、不器用で。庇護欲を掻き立てられるんだから。全く、タチの悪いセイレーンに捕まったものだ。

「ルーっ! や! あれはイヤだ! ……っう! くぅ……っ!」

 いやいやと左右に首を振り、銀の洪水が乱れる。腰を捩って逃れようとするから、自分で胎内を刺激することになり、その口唇を噛んで耐えている。

「くちびる、噛まないで」

 優しく囁いて、彼の唇にそっとキスする。そのまま唇同士をこすり合わせてから、ぽってりと腫れた下唇をこちらの唇で挟んで軽く引っ張る。彼が瞼をそっと持ち上げる。涙の雫が長い銀色のまつげにぶら下がり、重力に耐えきれず流れていく。碧の瞳が私をゆっくりと捉える。

「なんでイヤなの? あれ、死ぬほど気持ちイイでしょ?」

 ぐりぐりと胎内の弱い部分をえぐるように穿ちながら、彼を追い立てる。悲鳴に近い嬌声を上げながら、絶頂の波に攫われまいとするように、きつくシーツを握りしめる手。一度律動を止め、彼の腕を背中に回させて、こちらもしっかりと彼を抱き直す。そして、とどめとばかりに、ひときわキツく彼の内部を突き上げてやった。

「やぁっ! ……っあ! ひぁぁぁ───────っ!」

 弓なりに反る背中。ビクビクと痙攣する肢体。髪を振り乱しながら、とうとう彼はドライオーガズムに押し上げられた。彼自身は先端からダラダラと透明な蜜を零すが、射精には至らない。

「あっ! ……ルーっ、ルー、とまんな……っ、はぁぁ!」

 ゆるゆると穿ち、止まらない絶頂を味わわせてやる。同時に、目の前の赤くぷっくりと勃ち上がった乳首を甘噛みしてやれば、ひくひくと涙をこぼしながら彼が吐息と共に悲鳴をあげる。

「セフィ、大丈夫だ。うんと気持ちよくなって。今は私の事以外、何も考えないでくれ」

 そう、この腕の檻の中で。私に溺れていればいい。

「っく、セフィ、そろそろ出すよ。」

 うねり、私自身に甘えて絡みつく彼の胎内に、欲望を吐き出す。

「ひぃっ! ……っく、はうっ……!」

 胎内に熱い迸りを感じたようで、彼も甘い吐息を零す。限界に達した彼は、そこで気を失った。

 上気した彼の頬に優しくキスをし、うなじを撫でて愛撫してやっていると、やがて静かに聞こえてくる寝息。

そっと自身を抜き取ると、とろりと後孔から白濁が滴り、私自身との間に糸を引いた。見れば、彼の砲身は半分萎えたような状態で白濁混じりの粘液をとろとろと吐き出している。

「……っん……」

 手淫して彼の蜜を最後の一滴まで絞ってやると、わずかにその美しい柳眉が寄って、やがてまた安らかな寝顔に戻っていく。

「おやすみ、セフィ」

 ベッドから降りてバスローブを引っ掛け、洗面所で熱いタオルを作って後始末をしてやってから、シャワーを浴びに行く。コックを捻って湯を浴びれば、その暖かさにほうっとため息が出る。体がゆっくりと弛緩していく。

 

 セフィ。強く気高く美しい、私のマルス。

 神羅によって創り出された、最強の魔物。

 私の心を奪ってしまった美しい魔物。

 この星に産み落とされる前から、命が成立したその瞬間から人々の欲望を背負った悲しいきみ。人間であるのかどうかすら確信が持てないと、人知れず不安に揺れるきみ。

 大丈夫だ。私だって人間でこそあるものの、産み落とされる前から神羅に捧げられる事が決まっていた身だ。その運命を、決して一人では背負わせないさ。そして、本当の意味では、きみの方がよっぽど人間らしいよ。優しくて、不器用で、かわいくて。

 たとえきみの背中に翼が生えても、大地を踏みしめて歩いていけばいい。私がきみを、その命が尽きる時までこの星に、人の世に縛り付けてあげよう。

 近い将来、私は神羅の、そして世界の覇者となる。その時、私の隣にいるのは他でもないきみだよ。大丈夫だ。

 セフィ。一人で泣かないでくれ。私たちは二人で一つ。それはこの先、一時的に別れ別れになるとしてもだ。

必ず、きみは私の元に帰って来るんだ。だから、私の事以外、考えてくれるな。そうすれば、ずっときみを優しく束縛してあげよう。

 きゅっと微かな音を立ててシャワーコックをひねる。頭上から降り注ぐ暖かな雨が止み、残滓は排水溝に流れていく。タオルで水気を拭い、電気を消してバスルームを後にした。やがて、排水溝に水が落ちる音も止み、何事もなかったかの

ように湯気も換気されて消えた。

                                                                        

Fin

​20150819

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